|
ウラディーミル・フェドセーエフ(指)ベオグラード・フィルハーモニー管弦楽団 |
|
ユーゴスラヴィア
RTB
230189(LP) |
録音年:1988年6月11〜18日 ベオグラード Kolaratzホール(デジタル・ライヴ) |
|
演奏時間: |
第1楽章 |
14:50 |
/ |
第2楽章 |
13:43 |
/ |
第3楽章 |
5:44 |
/ |
第4楽章 |
12:17 |
|
カップリング/グリンカ:「ルスランとリュドミラ」序曲 |
“悲しみの「肯定」と「対決」を渾然一体化させた名解釈!” |
ベオグラード・フィルは、手兵のモスクワ放送響ほどの機能性と凄みはないものの、フェドセーエフの心血を注ぎきった解釈が縦横に張り巡らされて手応え十分。’81年の真面目な演奏から’98年のド迫力の名演に到達する過渡期の解釈の変遷を知る上でも興味深い録音です。暗い憂いに満ちた運命を受け入れつつも、それとどういう距離感で対峙していくか、それがフェドセーエフがこの曲に臨む際の一貫したテーマとなっているのではないでしょうか?その意味で、この88年盤は「憂い」と「対決」の両面をバランスよく配分していることが随所に感じられます。歌うべき箇所は徹底的に歌う。しかし涙に埋没しないのがフェドセーエフの大きな特徴ですが、そのスタイルを確立したのもちょうどこの頃ではないかと思われます。第2楽章142小節以降の弦の響きの層の厚み、呼吸の持久力は客演オケとの共演とは思えぬ感動的な仕上がり。終楽章の締めくくりも後の’98年盤をも凌ぐ凄みを見せること考えると、残響の多い録音でなければ、本来はより弾丸のような演奏として迫って来たかもしれません。なお、ライヴろくおんながら、拍手も会場ノイズもなし(グリンカでは後付けのような拍手有り)。 |
|
|
第1楽章のツボ |
ツボ1 |
よく歌い、暗い情感も出した素敵なフレージング。いかにもロシア的な粘着質のレガートが特徴的。テンポは標準的。 |
ツボ2 |
テンポは標準的。残響が多いので音のエッジが立っているようには聞こえないが、音楽自体はフェドセーエフらしい前向きさを示し、推進力もある。 |
ツボ3 |
あっさりと風のように通り過ぎる。 |
ツボ4 |
耽溺を避けて前を見据えることのみに集中した男らしい進行。 |
ツボ5 |
冒頭タイでつながった音符の音価を長めに取って独特の求心力を見せる。ただし、大きくテンポを落とすことはなく、推進力を確保している。 |
ツボ6 |
強弱の差はあえて大きく取らず、淡白なほどサラッと進行。 |
ツボ7 |
テンポは激変させず、表情も暗さを残したまま。 |
ツボ8 |
洗練されたフレージングが魅力的。ここでも感傷に浸らず、決然とした意志を絶やさない。 |
ツボ9 |
完全にインテンポ。冒頭16分音符は、テンポがやや遅めのため聞き取れる。その荘厳なテンポ感が最後まで続き、男性的な逞しさと憂いを混在させたニュアンスを結実させている。 |
|
第2楽章のツボ |
ツボ10 |
弦の導入は一見平板にも聞こえるが、第2ヴァイオリンの自然な挿入も含め、フワっとした感触を醸し出そうとする意志が宿っていることが感じられ心に染みる。ホルンは、大きな揺らぎ持って微かに響かせるヴィブラートが絶品!音楽を感じきったフレージング・センスも抜群。 |
ツボ11 |
鋭角的な爆発ではなく、大きな呼吸で高揚。ティンパニの音程がややずれている? |
ツボ12 |
クラリネットはなかなか味わい深いが、フレーズ結尾で音を弱くしすぎるのが惜しい。テンポは大きな変化を見せない。 |
ツボ13 |
後年で顕著となる、全休止の空白をなるべく短く切り上げるフェドセーエフ独特の手法がここで出現。ポロンポロンと頬を撫でるようなピチカートでははなく、直前の短い休止も含めて、むしろテンポも上げているように感じるほどキリッとしたニュアンスを克明に印象付ける。なんというイナセな技! |
ツボ14 |
冒頭だけでなく、弦全体がここまで一音ごことに全霊を傾けた演奏があっただろうか?143小節最後のタイで若干音量を弱めるが、これが全く恣意的ではなく、心の叫びとして胸を突き刺す!フォルテ4つへ到達するまでの感情の煽り加減も絶妙を極め、この箇所の最高位の演奏と讃えたいところだが、頂点でのティンパニの音がやはりピント外れ。あまりにも痛恨! |
ツボ15 |
強弱の振幅を付けず、テンポも揺らさず、素直に進行。そういう演奏は他にいくらでもあるが、ここではそのニュアンスが、この先の希望の光を予感させるパワーを孕んでいる。 |
|
第3楽章のツボ |
ツボ16 |
インテンポのまま。 |
ツボ17 |
残響が多めで、各パートの機敏な動きは体感しにくいが、ニュンスの連動は見事。 |
ツボ18 |
美しい一本のラインを形成している。 |
|
第4楽章のツボ |
ツボ19 |
内に強さを秘めたフレージング。テンポは標準的。弦の独特のレガートがここでも見られるが、わずかに音楽を前のめりにさせる力を持ったレガートであることがここでもわかる。 |
ツボ20 |
ホルンは完全に裏方。 |
ツボ21 |
主部のテンポは98年盤ほどエキセントリックではなく標準的。ティンパニは常に同じ音量で響き続ける。81小節からの符点リズムを克明に表出。 |
ツボ22 |
完全に無視。 |
ツボ23 |
残響が多めで力感をダイレクトに感じにくいが、渾身の演奏ではある。 |
ツボ24 |
主部とほぼ同じテンポ。 |
ツボ25 |
鈍い音。 |
ツボ26 |
そのままイン・テンポだが、音楽の力感を確実に増強させているのは流石。 |
ツボ27 |
直前で少しテンポを落とし、再び元のテンポ。トランペットにもう少し輝きが欲しいところ。 |
ツボ28 |
ティンパニはかなり盛大な鳴りっぷりだが締りがない。8分音符の音価はスコア通り。98年盤同様に、全休止をさっと切り上げているが、この時点ではまだその効果は結実しきっていない。 |
ツボ29 |
テンポはごく標準的だが、ロシア色全開の堂々たる進行。弦のクオリティの高さも印象的。 |
ツボ30 |
弦もトランペットも音を切るが、トランペットはやや曖昧。ただし、このトランペットの響きは絶品! |
ツボ31 |
スコア通りで改変なし。各パートの音量配分にも小細工を一切加えないで、丸裸のまま鳴らす潔さ! |
ツボ32 |
些細なことだが、538小節からのトランペットの4分音符2つの連打。これほどスパイスとして効果的に響いた例を他に聞いたことがない。それほどトランペットの響きが素晴らしい。ホロンは素朴な響き。 |
ツボ33 |
モルト・メノ・モッソ(546小節)以降は、明らかに98年盤を上回る響きの凝縮力と熱さ。最後の締めくくりも鉄壁のイン・テンポで手応えが凄い! |