LSO-0001
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ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:1999年9月29日&30日バービカン・センター・ライヴ |
LSO-0002
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ドヴォルザーク:交響曲第8番「イギリス」 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:1999年10月3日&4日バービカン・センター・ライヴ |
LSO-0003(2CD)
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ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」 |
ダニエラ・バルチェローナ(Ms)、
ケネス・ターヴァー(T)、
オルラン・アナスタソフ(Bs)、
コリン・デイヴィス(指)LSO&cho
録音:2000年1月11日&13日バービカン・センター・ライヴ |
LSO-0004(2CD)
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ベルリオーズ:歌劇「ベアトリスとベネディクト」 |
エンケレイダ・シュコサ(Ms;ベアトリス)
ケネス・ターヴァー(T;ベネディクト)
スーザン・グリットン(S;エロ)、サラ・ミンガルド(A;ウルシュラ)、
ロラン・ナウリ(B;クラウディオ)、
デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(Br;ソマローヌ)、
ディーン・ロビンソン(B;ドン・ペドロ)、
コリン・デイヴィス(指)LSO&cho
録音:2000年6月6日&8日バービカン・センター・ライヴ |
LSO-0005
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ブラームス:ドイツ・レクイエム |
ハロリン・ブラックウェル(S)
デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(Br)
アンドレ・プレヴィン(指)LSO&cho
録音:2000年6月17日&18日バービカン・センター・ライヴ |
LSO-0007
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ベルリオーズ:幻想交響曲*、
「ベアトリスとベネディクト」序曲+ |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2000年9月27日&28日*、2000年6月6日&8日+バービカン・センター |
LSO-0008(2CD)
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ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」 |
エンケレイダ・シュコサ(Ms;マルゲリータ)
ジュゼッペ・サバティーニ(T;ファウスト)ミシェル・ペルテュージ(Br;メフィストフェレス)
デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(Br;ブランデル)
コリン・デイヴィス(指)LSO&cho
録音:2000年10月15日&17日バービカン・センター |
LSO-0010(4CD)
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ベルリオーズ:歌劇「トロイアの人々」 |
ベン・ヘプナー(T;エネー)
ミシェル・ドゥユング(Ms;ディドン)
ペトラ・ラング(Ms;カサンドラ、カサンドラの幽霊)
サラ・ミンガルド(A;アンナ)
ペテル・マッテイ(Br;コレブ、コレブの幽霊)
スティーヴン・ミリング(B;ナルバル)
ケネス・ターヴァー(T;イオパス)
トビー・スペンス(T;イラス)
オルリン・アナスタソフ(B;エクトルの影)
ティグラン・マルティロシアン(B;パンテー)
イサベル・カルス(Ms;アスカーニュ)
アラン・ユーイング(B;プリアム、プリアムの幽霊)、他
コリン・デイヴィス(指)LSO&cho
録音:2000年11月30日〜12月9日バービカン・センター |
LSO-0014
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ドヴォルザーク:交響曲第7番 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2001年3月21日バービカン・センター |
LSO-0017
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エルガー:交響曲第1番 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2001年9月30日&10月1日バービカン・センター |
LSO-0018
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エルガー:交響曲第2番 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2001年10月3日&4日バービカン・センター |
LSO-0019
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エルガー:交響曲第3番(エルガーによるスケッチに基づくアンソニー・ペインによる完成版) |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2001年12月13日&14日バービカン・センター
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LSO-0022
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ブルックナー:交響曲第6番 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2002年2月19日&20日バービカン・センター |
LSO-0023
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ブルックナー:交響曲第9番 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2002年2月22日&24日バービカン・センター |
LSO-0029
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ホルスト:組曲「惑星」 |
コリン・デイヴィス(指)LSO、同女声cho
録音:2002年6月バービカン・センター |
LSO-0030
LSO-0535(1SACD)
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ショスタコーヴィチ:交響曲第11番「1905年」 |
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(指)LSO
録音:2002年3月19日&20日バービカン・センター |
LSO-0037
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シベリウス:交響曲第5番*、第6番+ |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2003年12月10-11日*、2002年9月28-29日+ |
LSO-0038(2CD)
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マーラー:交響曲第6番「悲劇的」 |
マリス・ヤンソンス(指)LSO
録音:2002年11月27日&28日、ロンドン |
LSO-0040
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ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」 |
タベア・ツィマーマン(Va)
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2003年2月16日〜27日・ライヴ |
LSO-0043
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ブラームス:交響曲第2番、二重協奏曲* |
ゴルダン・ニコリッチ(Vn)
ティム・ヒュー(Vc)
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2003年5月17日&18日バービカン・センター |
LSO-0045
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ブラームス:交響曲第1番、悲劇的序曲 |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2003年5月22日&23日、ロンドン |
LSO-0046(12CD)
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ベルリオーズ・エディション
劇的交響曲「ロメオとジュリエット」
歌劇「ベアトリスとベネディクト」
幻想交響曲
歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲
劇的物語「ファウストの劫罰」
歌劇「トロイアの人々」
交響曲「イタリアのハロルド」 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
※LSO-0003、LSO-0004、LSO-0007、LSO-0008、LSO-0010、LSO-0040のセット化 |
LSO-0051
LSO-0552(1SACD)
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シベリウス:交響曲第3番*、第7番# |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2003年10月1日&2日*、2003年9月24日&25日# |
LSO-0054(3CD)
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ブリテン:歌劇「ピーター・グライムズ」 |
グレン・ウィンスレード(ピーター・グライムズ)
ジャニス・ワトソン(エレン・オーフォード)
アントニー・マイケルズ=ムーア(ボルストロード船長)
キャサリン・ウィン=ロジャース(セドリー夫人)ジェイムズ・ラザフォード(スワロー)、他
コリン・デイヴィス(指)LSO&cho
録音:2004年1月10日&12日バービカン・センター |
LSO-0055(2CD)
LSO-0528(2SACD)
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ヴェルディ:歌劇「ファルスタッフ」
(演奏会形式) |
ミケーレ・ペルトゥージ(ファルスタッフ)
カルロス・アルバレス(フォード)
ビューレント・ベツデューツ(フェントン)
アラスデア・エリオット(カイウス)
ペーター・ホアレ(バルドルフォ)
ダレン・ジェフリー(ピストラ)
アナ・イバッラ(フォード夫人アリーチェ)
マリア・ホセ(ナンネッタ)
マリーナ・ドマシェンコ(ページ夫人メグ)
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2004年5月17、20、23日・ライヴ |
LSO-0056
LSO-0544(1SACD)
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ブラームス:交響曲第3番ヘ長調*、セレナード第2番+ |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2004年6月16-17日ライヴ*、2003年5月21-22日ライヴ+ |
LSO-0057
LSO-0547(1SACD)
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ブラームス:交響曲第4番 |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2004年6月16-17日バービカン・ホール |
LSO-0058
LSO-0550(1SACD)
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ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 |
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(指)LSO
録音:2004年7月7日&8日バービカン・センター |
LSO-0059
LSO-0526(1SACD)
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ドヴォルザーク:交響曲第6番 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2004年9月28日&29日バービカン・センター |
LSO-0060
LSO-0527(1SACD)
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ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 |
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(指)LSO
録音:2004年11月3-4日バービカン・センター |
LSO-0061
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スメタナ:連作交響詩「わが祖国」 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2004年10月10、15日バービカンホール・ライヴ(拍手なし) |
デイヴィスにとって、これが同曲の初の正規録音。「古い城」はこれが初録音とは思えぬフレージングの求心力の高さにびっくり!2:31から弦が弾くテーマの強弱の振幅は早くも入魂。打楽器が加わる盛り上がりのダイナミズムと響きの高潔さの両立はデイヴィスならではで、その頂点のアゴーギクの絶妙さにも鳥肌。後半のニュアンスはデイヴィスには珍しいほどコントラストが濃く、惜しげもなくダイナミズムを発散させます。この1曲だけでのこの演奏が只ならぬ名演であることを確信させますが、続く「モルダウ」にも唖然。あのジョージ・セル以来とも言える高潔さで、入念に楽想のイメージを膨らませてくれるのです。最初のテーマは切なさの極みでありながら威厳にも満ち溢れ、単なる情景描写を超えた音楽自体の素晴らしさを徹底的に表出。「田舎の踊り」の直前でルフト・パウゼが入るのはユニークですが説得力絶大。続く「月の光」の透明感溢れる弦の響きと柔らかな管楽器とが織りなすハーモニーは、その情景の中に今自分が立っていると錯覚するほどの空気感。容赦なく雪崩れこむ「シャルカ」も激烈。即興的なチェロの走句(3:07)の鮮やかさも必聴。コーダは驚愕!急速なテンポの中で細かい管楽器の音型の全てを抽出しているのにも脱帽ですが、ひたすら高揚し続けながら最後の最後で大きくテンポを落として空前の高みに達するのです!最後の「ブラニーク」はアクセントの位置が頻繁に変わる曲ですが、それを唐突感や煩わしさを感じさせずに、自然に音楽の流れと一体化させている点がまさに巨匠芸!コーダは急速テンポで駆け抜けながら、音楽が小さくまとまることなく確かな手応えを感じさせるというのも、あまり他では例がないのではないでしょうか。【湧々堂】 |
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LSO-0070(4CD)
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ブラームス:交響曲全集
交響曲第1番*、悲劇的序曲+
交響曲第2番#、二重協奏曲#
交響曲第3番**、セレナード第2番++
交響曲第4番## |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2003年5月21日*、2003年5月17日+、2003年5月17日#、2004年6月16-17日**、2003年5月21-22日++、2004年6月16-17日## |
LSO-0071(3CD)
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ドヴォルザーク:交響曲第6番*、
第7番+、第8番#、第9番** |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:1999年9月29-30日**、1999年10月3-4日#、2001年3月21日+、2004年9月28-29日* |
LSO-0072(3CD)
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エルガー:交響曲第1番*、第2番+、
第3番(A.ペイン補筆)# |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2001年9月30日-10月1日*、2001年10月3-4日+、2001年12月13-14日# |
LSO-0074
LSO-0574(1SACD)
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シベリウス:クレルヴォ交響曲 |
ペーテル・マッティ(Br)、モニカ・グロープ(Ms)、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO&ロンドン響男声cho
録音:2005年9月18日&10月9日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
2005-6年シーズンのオープニング・コンサートで、デイヴィスとロンドン響が取り上げたクレルヴォ。LSO
Liveでシベリウス全集を再度進行中の当コンビにとっては、96年以来5年ぶりの再録音となるものです。全5楽章からなる大作クレルヴォは民族叙事詩「カレワラ」を題材にとり、若きシベリウスの名を一躍フィンランド国内に轟かせることになった記念すべき作品。全曲の中心となる第3楽章。実演での興奮そのまま、オケはもちろんとりわけ男声コーラスが力強くユニゾンで歌い上げるさまはビックリするほど劇的で、まさにド迫力!そして、すでにクレルヴォ歌いとしてはヴェテランのソリストが聴かせる、なんとも情感のこもったやりとり。続く第4楽章では、自慢のパワフルなブラス・セクションの見せ場がこれでもかと爆発しており魅力度満点!声楽を伴う作品への取り組みにもひときわ熱心なことで知られるデイヴィス。心血を注ぎ愛情がぎっしり詰まったシベリウスとはいえ、あえてこうした意欲的なプログラムを大事な場にかけることは長年の悲願だったのでしょう。手兵に寄せる厚い信頼もあって演奏会が大成功を収めただけに、特別に感動的なものとなっています。 (Ki) |
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LSO-0076
LSO-0576
(1SACD)
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ウォルトン:交響曲第1番 |
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2005年9月23日&12月4日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
デイヴィスは記録によれば実演ではたびたび取り上げていますが、このたび満を持しての初録音!激情渦巻く前半2楽章における刺激的で尖がったリズム。じんわりと匂いたつような弦により抒情美をいっぱいにたたえたアンダンテ。そして輝かしいフィナーレ。ここでは自慢のブラス・セクションの響きがひときわ印象的。いまの彼らの充実ぶりを聴くのにまさにピッタリの内容となっています。おなじみのチームによるとびきりの優秀録音もポイント。 (Ki) |
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LSO-0078
LSO-0578(1SACD)
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ベートーヴェン:交響曲第7番、
ピアノ,ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲 |
ゴルダン・ニコリッチ(Vn)、
ティム・ヒュー(Vc)、ラルス・フォークト(P)、
ベルナルト・ハイティンク(指)LSO
録音:2005年11月16−27日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
巨匠ハイティンクのもと注目の新プロジェクトをスタートします。コンセルトへボウ管創立100周年の記念碑的全集(第7番は85年)が今も記憶に残るハイティンクのベートーヴェン。20年の歳月を経て最新のベーレンライター版の楽譜を使用して臨んだ当ライヴは、経験に培われた堂々たる風格にもまして、不思議なことに若返ったかのような新鮮な魅力でいっぱい!オケの意気込みも桁違いで全篇驚くほどの高揚感!まぎれもなくここからはベートーヴェンが込めた、血の通った人間の、魂の音楽が聞こえてきます。そしてハイティンクにとってはボザール・トリオ&ロンドン・フィル(77年)以来の三重協奏曲。同時期の「英雄」交響曲を思わせる勇壮さがポイントで、おなじみの首席奏者たちの見せ場もじつに豊富。彼らを大ヴェテランが万全に支えています。なお、当コンビは今年中にヨーロッパ&アメリカ・ツアーを行い、交響曲すべてを録り終える予定とのこと。しかも、このたびのロンドン響によるベートーヴェン・シリーズは声楽作品も含む非常に大掛かりなもので、こちらはデイヴィスの指揮でミサ・ソレムニス、ハ長調ミサ、フィデリオといった期待度満点のプログラムも控えているというからますます目が放せません。 (Ki) |
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LSO-0082
LSO-0582(1SACD)
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ベートーヴェン:交響曲第2番、交響曲第6番「田園」 |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2005年11月16−27日バービカン・センターにてのライヴ録音 |
第2番では、ハイティンクは手兵ロンドン響を率いて実にフレッシュな演奏を繰り広げております。スケルツォも実に快活。第6番「田園」も、第1楽章の冒頭の管による2楽章から、他のオケとは一味違う管の名人揃いであることを証明するもの。第4楽章の嵐はパワー全開、フルスロットルです。熱血ぞろいのロンドン響メンバーの白熱ぶりには思わず力が入ります。ベートーヴェンが言いたかった事、表現したかったことを、ハイティンクは一つももらさず汲み取って、見事の一語に尽きます。 (Ki) |
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LSO-0083(2CD)
LSO-0583(2SACD)
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エルガー:「ジェロンティアスの夢」Op.38 |
デイヴィッド・レンドール(T:ジェロンティアス)、
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(Ms:天使)、
アラステア・マイルズ(Bs)、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO&Cho
録音:2005年12月11日&13日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
この壮大なオラトリオ風の声楽曲は、由緒あるバーミンガム音楽祭の委嘱を受けて1900年に完成初演されました。前年に初演を果たしたばかりの「エニグマ変奏曲」と並んでエルガーが国際的名声を得るきっかけとなった代表作であり、また、本国では重要な節目でしばしば取り上げられ英国オラトリオの最高峰とも云われるほどの人気を誇っています。ジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿のテクストによる内容は、ジェロンティアスが死の淵で魂の救済について天使や神と問答を繰り広げるというもの。デイヴィスは公演前のインタヴューで作品について次のように述べています。「死についての音楽を書こうとすると、ふつうならレクイエムあるいは名の通った歴史上の人物の死を描くところですが、ここでは死そのものにまつわる実際のプロセスを扱っている点で独創的。まさに過去に例のないまったく新しいタイプの、真に偉大な作品なのです。」実際、この言葉通りに厚い共感を寄せるデイヴィスのドラマ作りは最高!二部構成演奏時間一時間半を超える長丁場を完璧にまとめ上げています。加えてソリストの健闘も光ります。病気のため降板したベン・ヘップナーの代役を立派にこなしたレンドール。後半に向け尻上がりに調子を上げてゆくオッターに、深みある役どころを演じきったマイルズ。そして、最後のカギを握る“合唱”のとてつもないテンションの高さは圧巻。清澄かつ深遠に、エルガーらしい気高くもやさしくせつない音楽を歌い上げます。クライマックスの、天上の合唱による「いと高きところでは、聖なる方をほめたたえよ」に至っては震えが止まらぬばかりの感銘に心を打たれます。バービカンセンターの屋根がいまにも吹飛ぶばかりの迫力と重厚なサウンドもオーディオ的魅力満点で、モニュメンタルな作品にふさわしい仕上がりとなっています。 |
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LSO-0087
LSO-0587(1SACD)
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ベートーヴェン:交響曲第4番、交響曲第8番* |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2006年4月19-20日、2006年4月24-25日* |
ついにハイティンク&LSOのベートーヴェン・ツィクルスが完結です。ハイティンクの手にかかると、どのオーケストラもそのオケ「らしい」音色やオリジナル・カラーといった個性が存分に引き出される、いわばハイティンク・マジックのようなものがあります。ロン響ともすでに度々共演を重ねておりますが、リリースを重ねる度に、ロン響の弦のテンションの高さ、管楽器の上手さ、アンサンブルの完璧さにあらためて驚かされるばかり。第4番の終楽章のピアノとフォルテの対比、駆け巡る弦楽器のパッセージと、それに応える管楽器の丁々発止のやりとりは聴いていて思わずググッと身を乗り出してしまうほど。第8番も、第2楽章の管楽器の刻むリズムを聴いていると心躍ります。ツィクルスの最終盤を飾る華やかな名曲2曲のカップリングを、思う存分楽しめる、ハイティンクの指揮が冴え渡り、ロン響のエネルギーが120%爆発した演奏となっています。 (Ki) |
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LSO-0090
LSO-0590
(1SACD)
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ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」、交響曲第1番 |
ベルナルト・ハイティンク(指)LSO
録音:2006年4月24−30日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
ハイティンクとロンドン響による新しいベートーヴェン・シリーズでは、堅牢で力強い推進力に満ちた音楽がその魅力となっていますが、「運命」こそはまさに典型的な一例といえるでしょう。あらゆるクラシック音楽のフレーズで最も有名なもののひとつ、冒頭の運命の動機がロンドンでかくも鳴り響いたのはいったいいつ以来のことか!?とレヴューでも大絶賛されたライヴ。革新的なアイデアの数々が盛り込まれた真に偉大な作品をどのように聴かせてくれるのでしょうか?実演の機会に第9とのカップリングだった第1番もそうですが、一面ではピリオド・アプローチの成果を取り入れながら“わたしたちの時代のベートーヴェン”というコンセプトを明確に打ち出しつつ、格調の高さをしっかりと守っている普遍的なベートーヴェン演奏。いつまでも何度でも繰り返し聴きたくなる内容です。 (Ki) |
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LSO-0092
LSO-0592(1SACD)
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ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱つき」 |
トワイラ・ロビンソン(S)、
カレン・カーギル(A)、
ジョン・マック・マスター(T)、
ジェラルド・フィンリー(Bs)、
ベルナルト・ハイティンク(指)LSO、cho
録音:2006年4月29&30日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
巨匠ハイティンク&ロンドン響によるベートーヴェン・シリーズにいよいよ第九が登場します。現在もリリースは進行中ですが、今年の4月をもって全録音を終えた当プロジェクトの掉尾を飾ったプログラムです。ここまで通して聴いてこられた方はお分かりのように、ハイティンク=物分りの良い、おとなしいアプローチをイメージすると大間違い。アグレッシブで緊張感に満ちた前半2楽章。ピリオド演奏も顔負けのパンチ力に鮮烈な響きが特徴です。アンダンテではとめどなく溢れ出る美しさに引き込まれます。そして「合唱」が加わるフィナーレ。前評判どおりのフィンリーの雄雄しい歌い出しにもしびれますが、なかでもロンドン響コーラスはいつも通り万全の出来栄えで、人間ベートーヴェンが込めた魂の賛歌を圧倒的な表現力で歌い尽しています。コーダのトゥッティは、まさに至福とほかたとえようもなく震えが止まらないほど。残すところ4曲、いまを生きる、わたしたちの時代の新たなベートーヴェン。全集の完成がほんとうに待ち遠しいかぎりです。 (Ki) |
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LSO-0105
LSO-0605(1SACD)
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シベリウス:交響曲第2番、
交響幻想曲「ポヒョラの娘」 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2006年10月、2005年10月ロンドン・バービカンセンター(ライヴ) |
2007年シベリウス没後50年に合わせてのリリースとなるこのたびのライヴは、過去2度にわたる全集録音の豊かな経験を踏まえ、巨匠デイヴィスの熱い思いのすべてが注ぎ込まれた渾身の内容です。前回(94年)から10年以上の歳月を重ねて臨んだ第2番のライヴ。そもそもデイヴィス+ロンドン響+シベリウスの組み合わせとくれば期待度の高さは計り知れませんが、とっておきの作品を演奏することへの心からの喜びでしょうか。これまでのどれよりもドラマティックで、若々しくみずみずしい感性にあふれているのが驚異的。いつ聴いても、あのどこか懐かしい気分に心弾む第1楽章、大自然の雄叫びのように荒々しく怒れるティンパニの炸裂と金管の咆哮とがこだまする中間2楽章を経て、とてつもなく雄大に結ばれるフィナーレ。いつしかこのうえなく温かく感動的な演奏に言葉もありません。カップリングは2005-6年シーズンのオープニング・コンサートでクレルヴォ(LSO.0074、LSO.0574)の前プロに取り上げられた「ポホヨラの娘」。そのクレルヴォと同じく民族叙事詩「カレワラ」を題材とするこの作品でもまた、繊細な弦の表情とブラス・セクションの轟きが圧倒的な感銘を残します。一貫して完成度の高い録音もオーディオ・ファイル注目の的で、本拠地バービカンセンターのクリアな音場を最高のスタッフが忠実に再現しています。 (070125Ki) |
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LSO-0109
LSO-0609(1SACD)
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エルガー:エニグマ変奏曲Op.36、
序奏とアレグロOp.47 |
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2007年1月6&7日、2005年12月ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
エニグマ変奏曲は、この顔合わせでは前回のスタジオ盤(65年)以来、じつに40年以上の時を経てのライヴによる再録音となります。管弦楽法に長けたエルガーが世に送り出し、当時のイギリス管弦楽作品史上最高傑作として英国内にその名を知らしめたエニグマ変奏曲。のちにLSOの初代首席指揮者に就任するハンス・リヒターによって1899年に初演されています。その内容はオリジナルの主題とそれに続く14の性格的な変奏、愛妻アリスに始まり作曲者ゆかりのさまざまな特徴的な人物を描写したのち、フィナーレの最終変奏でエルガー自らに到達するというもの。流麗でやわらかく、ときにエモーショナルで騒々しくと次々と変転する曲想に対して、いっそう良好の結びつきをみせる当コンビの演奏はさすがに見事なかぎり。哀切な主題に、第5さらにチェロの人懐こい旋律に締めつけられる第12変奏で顕著な弦の濃密な味わい。第4や第7、第11など激しい性格の変奏におけるブラスの迫力も満点。それぞれが印象深い場面に事欠きませんが、全曲の白眉はこれまでに実演のアンコールでもしばしば単独で取り上げられることもあった第9変奏ニムロッド。静かに霧が立ち込めるようにしっとりと開始され、優しさと愁いを帯びた美しさが痛切に迫り絶品です。そして、どこかあの行進曲「威風堂々」の雰囲気にも似て、あたかも大英帝国の栄光を体現したかのように華麗この上ない作曲家自画像のフィナーレ。大げさな構えとか誇張はなく、つとめて真摯なのはこの指揮者らしく好ましいところ。なお、ここでは任意指定のオルガンは使われていませんが、それでもエルガーに不可欠な重厚な響きは十分に保たれています。ボールト、モントゥー、ヨッフム、プレヴィン…折に触れて行った過去の名だたる指揮者との録音実績を辿れば、当作品を演奏することが楽団の歩みとそのまま重なるといっても過言ではないLSO。その意味では、エルガーのアニヴァーサリーに、自らの録音史に新たな一コマを刻むLSOにしても、ほかでもないこの曲でプレジデントの初舞台を踏んだデイヴィスにしても、この“記念づくし”のライヴは偶然とは思えぬなんという運命の巡り合わせでしょうか。カップリングは同じくエルガー1905年作の序奏とアレグロ。書法はさらに洗練されて、バロック時代の様式であるコンチェルト・グロッソをロマン派のイディオムで再現しています。弦楽四重奏と弦楽オケが織り成す複雑な音楽は、スケールも大きく劇性に富み、自由で独創的。デイヴィスにはバイエルン放送響(93年)との録音もありますが、10年を超える歳月となによりエルガーにゆかりの深いLSOを得たことで説得力は計り知れません。交響曲全集(LSO.0072)やジェロンティアスの夢(LSO.0083、LSO.0583)でもそうでしたが、デイヴィスのもとLSOがエルガーでみせる愛しむような表情にはやはり格別のものがあるというべきでしょう。 (Ki) |
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LSO-0124
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ジェイムズ・マクミラン:世界の贖罪*、
イゾベル・ゴーディの告白 |
クリスティン・ペンドリル(コールアングレ)*、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2003年9月*、2007年2月21日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ)・ストークス |
スタートから通算50番目の記念すべき節目にあたるLSO
Live最新アルバムは、LSOとデイヴィスにとって、ともに度重なる実演を通じて長いつながりのあるマクミランの作品集。2007年3月にLSOが本拠とするバービカンセンター開設25周年記念コンサートでも取り上げられた「イゾベル・ゴーディの告白」。1990年プロムス初演の際に一大センセーショナルを巻き起こし、マクミランの国際的評価を決定づけた出世作であり、いまなお彼の一番人気の作品といわれています。作曲の動機は17世紀、宗教改革以後のスコットランドで吹き荒れた魔女狩りによって、おびただしい数の女性が犠牲となった史実に深くインスパイアされたこと。全曲は曲想の異なるブロックに分かれていますが切れ目なく演奏されます。暴力的なリズムと不協和音が支配する中間部では、集団ヒステリー下での吊るし首と火あぶりを表現しているのでしょうか。ここぞとばかりにLSOのパワフルなブラスと打楽器が気を吐き、まさにこの世の地獄のような大音響。作曲者が「イゾベル・ゴーディのために決して歌われることの無かったレクイエム」と述べるように、なるほど途方もない悲しみの感覚を描くことに腐心したあとが窺えるのが冒頭と結尾で、陶酔さえ漂う弦楽の美しさ。真摯なデイヴィスのつくる音楽は痛切な祈りとなって閉じられます。1959年生まれのマクミランは、カトリックへの信仰、社会主義とスコットランドへの愛国心に深く根ざした作風がその特徴で、これまでにメッセージ性の強い作品を発表してきました。1662年に魔女のかどで残忍な拷問の末に処刑されたうら若き女性を題材にしながら、そのじつは近年ヨーロッパでのファシズムの新しい高まりに対する、自身の懸念を表明する意図が込められているともいわれます。カップリングの「世界の贖罪」はLSOによる1996年の委嘱作。聖木曜日の典礼にインスパイアされた曲は三部作「聖なる三日間」の第1部にあたり、基本的にはコールアングレのためのコンチェルトという趣きになっています。1997年の初演時と同じく当ライヴでもソロを務めるのはLSO首席の名手ペンドリル。ときに物悲しく、豊かな表情はさすがに初演者の自負の顕れにも似て絶大な説得力。演奏について、サンデー・テレグラフ紙、デイリー・テレグラフ紙、タイムズ紙とも挙って手放しの賛辞を贈っています。2007年9月25日に80歳の誕生日を迎えたLSOプレジデント、コリン・デイヴィス。自らの傘寿を祝う新たな作品を委嘱する作曲家として、ここで巨匠により指名されたのがマクミランでした。 |
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LSO-0127
LSO-0627(1SACD)
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モーツァルト:レクイエム(ジュスマイア版) |
アンナ・ステファニー(Ms)、
アンドルー・ケネディ(T)、
ダレン・ジェフリー(Bs)、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO、ロンドン交響cho
録音:2007年9月30日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
LSO Live最新録音は巨匠デイヴィスによる「モツレク」。ピュア・モーツァルトと題されたこの日、内田光子が弾く第27番の協奏曲につづいて演奏されたレクイエムは、10月3日に行なわれた本来のSirColinDavis80thbirthdaygalaの同じくメイン・プロ、しかもこれがレーベル初のモーツァルト・アルバムというおまけつきです。ちょうどLSOとの歩みと重ね合わせるかのように、半世紀以上の長きにわたってモーツァルトに取り組んできたデイヴィス。オペラ、管弦楽曲、声楽曲といずれもたいへん得意にしていて実演ではもちろん、録音も数多く残しています。じっさいレクイエムも、BBC響(67年)、バイエルン放送響(91年、ほかに84年のライヴ映像)と、当ライヴでじつに4種目。けれども長年の手兵LSOとは、かなり以前に大ミサや戴冠式ミサなどを録音しながら、レクイエムだけはこれまでチャンスがありませんでした。その意味でも、あらたに若手から抜擢されたソリスト、強力無比のロンドン交響合唱団をしたがえ、なにより楽団の歴史を通じてもまれにみるほど強く確かな結びつきをみせるLSOとの初顔合わせによる新録音は、タイミングといい、巨匠にとってまさに期するところがあったと考えて差し支えないでしょう。ここでデイヴィスはアプローチがピリオド・スタイルではないとの指摘や異論を排して、これまでとは明らかに次元の異なる力と重みでわたしたちを惹きつけてやみません。なお、同一のキャストによりモツレクは、バービカンでの2公演に加えて10月17日にはニューヨークのエイヴリー・フィッシャー・ホールでも取り上げられています。ソリストの内田光子がアンコールに、オケと一緒に“ハッピー・バースデー即興曲”を弾いて大いに会場を沸かせた当夜のライヴ。なかでもひときわ完成度が高く、実演に接した人びとから一刻も早いリリースをとの声が強く寄せられていたものです。 (Ki) |
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LSO-0191(4CD)
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シベリウス:交響曲全集
交響曲第1番ホ短調Op.39
録音:2006年9月23-24日(ライヴ)
交響曲第2番ニ長調Op.43
録音:2006年9月27-28日(ライヴ)
交響曲第3番ハ長調Op.52
録音:2003年9月24日-10月2日(ライヴ)
交響曲第4番イ短調Op.63
録音:2008年6月29日-7月2日(ライヴ)
交響曲第5番変ホ長調Op.82
録音:2003年12月10-11日(ライヴ)
交響曲第6番ニ短調Op.104
録音:2002年9月28-29日(ライヴ)
交響曲第7番ハ長調Op.105
録音:2003年9月24日-10月2日(ライヴ)
クレルヴォ交響曲Op.7
録音:2006年9月18日&10月9日(ライヴ) |
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
モニカ・グロープ(Ms)、ペーテル・マッティ(Br)
ロンドン交響cho
収録場所:ロンドン、バービカンセンター |
シベリウスの演奏をライフワークと位置付けてきたデイヴィスは、番号つきの7曲の交響曲を1975年、1976年にボストン響とセッションで録音、さらに今回と同じくクレルヴォを含めた全曲を1992年から1996年にかけてやはりLSOとセッションで録音して、エキスパートにふさわしい愛情と共感にあふれた音楽を聴かせていたのは広く知られるところです。オーディオ誌から注目される優秀録音を実現していることもポイントといえる当全集。過去の実績を踏まえ、2002年より足掛け9年の歳月をかけて実演でじっくりと一作ずつ取り上げて完成させた、正真正銘デイヴィスによるシベリウスの集大成といえるでしょう。いずれ劣らずみごとな出来栄えですが、より後年の録音である第1番、第2番、クレルヴォあたりはなかでも圧倒的な手ごたえを感じさせるものとなっています。各CDカード・スリーブ入りクラムシェル・ボックス仕様、64ページのブックレットつき。 (Ki) |
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LSO-0537(1SACD)
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シベリウス:交響曲第5番
交響曲第6番* |
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2003年12月10&11日ロンドン・バービカンホール(ライヴ)、2002年9月28&29日ロンドン・バービカンホール(ライヴ)* |
2003年収録の第3番と第7番のリリースよりスタートし、2008年におこなわれた第4番の収録をもって、すでに全集の完成をみていますが、ファンの方々からの熱いご要望にお応えして、ここに第5番と第6番がSACDハイブリッド盤でのリリースの運びとなりました。親しみやすくフィンランドの大自然を感じさせる抒情的な内容と輝かしいフィナーレから、第2番などと並ぶ人気作の第5番。そして、どこか捉えどころなくミステリアスな作風ながら、深みと完成度により磨きをかけた第6番。集大成といえる自身3度目の全集シリーズにあたり、デイヴィスはエキスパートにふさわしい愛情と共感にあふれた音楽づくりで、手兵LSOからじつに活き活きとした表情を引き出しているのは、よく知られるところです。第2弾としてリリースされたこのカップリング、第5番は2003年12月10、11日、第6番は2002年9月28、29日、いずれもロンドンのバービカン・センターにおけるライヴで、順にジョナサン・ストークス、トニー・フォークナーと、名うてのエンジニアが収録にあたっています。もともと、この2曲もオリジナル・マスターはほかの交響曲と同じくDSDフォーマットで収録されているため、その点でもSACDによるリリースは意義と必然性のあるものとなっており、これにて正真正銘、シリーズは真の完結を迎えたといえるでしょう。★LSO.0037は廃盤となります。 (Ki) |
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LSO-0593
(2SACD)
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ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」 |
クリスティーン・ブルーワー(S)、
ジョン・マック・マスター(T)、
クリスティン・ジグムントソン(Bs)、
サリー・マチューズ(S)、
ユハ・ウーシタロ(Bs)、
アンドルー・ケネディ(T)、
ダニエル・ボロウスキ(Bs)ほか、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO&cho
録音:2005年5月23-25日、バービカンセンター ライヴ
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御大サー・コリン・デイヴィス、円熟のベートーヴェンの「フィデリオ」!!デイヴィス自身「今まででもっとも多い回数演奏してきたオペラ」と語るこの「フィデリオ」、演奏の度に絶賛を受けながら、ますますの彫りを深くしていくのですから頭が下がります。CDとしては、1995年のバイエルン放送交響楽団との録音以来、ちょうど10年ぶり、こちらはライヴですので、デイヴィス本来の熱気がと、77歳の円熟がたっぷり。歌手は、日本ではまだ知られていない人が多いものの、実はかなりの高水準。クリスティーン・ブルーワーは、米国イリノイ州出身のドラマティック・ソプラノ。北米とことに英国での人気が高く、既にBBC交響楽団イゾルデを歌ったCDもあります。ジョン・マック・マスターは、今大きな注目を浴びているテノール。カナダ東端のニューブランズウィック出身。近年は徐々にドラマティックな役に挑戦、この秋にはトリスタンも初めて歌っています。カナダ出身のドラマティック・テノール、ジョン・ヴィッカーズやベン・ヘップナーに続く存在として、期待の星です。また、フィンランドのバスバリトン、ユハ・ウーシタロに、アイスランドのバス、クリスティン・ジグムンドソンと、男声低音も極めて充実。ワグネリアンには、歌手の実力を測るにも絶好のCDです。なお、「レオノーレ」序曲第3番は挿入せず、そのまま「フィデリオ」全曲を演奏しています。 (Ki) |
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LSO-0594
(1SACD)
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ベートーヴェン:ミサ曲ハ長調Op.86、
歌劇「フィデリオ」第1幕〜囚人の合唱 |
サリー・マシューズ(S)、サラ・ミンガルド(A)、
ジョン・マーク・エインズリー(T)、
アラステア・マイルズ(Bs)、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO&ロンドン交響cho
録音:2006年2月26日、2006年5月23−25日*、ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
2005年11月にスタートし、作曲者歿後180周年を翌年に控えた2006年のシーズンを通して行われたLSOによるベートーヴェン・シリーズ。このプロジェクトはゆかりの巨匠ふたりが演目を振り分ける形でも話題を集めました。すなわちハイティンクがすべてのシンフォニー(LSO.0598)を振ったのに対して、デイヴィスの受け持ったのが「フィデリオ」(LSO.0593)とミサ・ソレムニス、そしてこのたびリリースとなるハ長調ミサ。先人ハイドンのお株であるジャンルに挑み、ベートーヴェンの革新性がおおきく開花したハ長調ミサは、ちょうど書かれた時期からもいわゆる「傑作の森」に列せられる作品。デイヴィスは以前に同じLSOと録音(1977年スタジオ)済みですが、ほぼ30年近い時を隔てて、ここに「ベートーヴェン・プロジェクト」という絶好の機会を得て、ふたたび手兵LSOとともに臨んだ当夜のライヴ。あえてハイティンクにシンフォニーすべてを託してまでこれに取り組んだことも、かえって巨匠の異常な燃え上がりに圧倒される大演奏を生み出すことになりました。ここでのLSOは交響曲でもみせたように、ピリオド・スタイルを踏まえながら、ときにアグレッシヴに鋭く切り込むところも新鮮な魅力。ソリストには若い世代からマシューズ、デイヴィスからの起用も多いエインズリーとマイルズ。さらにアンサンブルに厚みを加えるのは、やわらかく高貴な美声が申し分ないコントラルト、ミンガルド。そして、いまや看板となったLSCも驚異的な充実ぶりでベストを尽くしています。なお、フィルアップにはそのコーラスの実力がいかんなく発揮された、既出「フィデリオ」全曲盤より第1幕フィナーレ、囚人たちの合唱をアンコール収録しています。 (Ki) |
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LSO-0598(6SACD)
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ベートーヴェン:交響曲全集、
三重協奏曲 |
ラルス・フォークト(P)、ニコリッチ(Vc)、
ティム・ヒュー(Vc)、
ベルナルト・ハイティンク(指)LSO
録音:2005-6年 |
SACDによるベートーヴェン交響曲全集も発売点数が充実して来ましたが、疑似マルチチャンネルではない最新の全曲録音がついに完成。小細工のない表現が今やかえって新鮮です。 (Ki) |
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LSO-0601(1SACD)
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シベリウス:交響曲第1番ホ短調Op.39、
交響曲第4番イ短調Op.63* |
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2006年9月23日−24日、2008年6月29日−7月2日*ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
数多くのファンが関心を寄せるLSOLive最大の呼び物、デイヴィスによるシベリウス・シリーズ。完結篇は2008年6、7月の最新ライヴによる第4番と、前作の第2番(LSO.0105、SACDはLSO.0605)と同じく、作曲者没後50年を翌年に控えた2006年9月ライヴの第1番というカップリング。陰鬱で内省的、その斬新で難解な内容により、7つの交響曲の中でも一般的に最もなじみが薄いとされる第4番は、そのじつ、シベリウスを心から愛する人たちが‘もっともシベリウスらしい’と口を揃えて語る傑作です。作曲に至る過程でのどの腫瘍の手術を終え、再発の不安と向き合いながら新しく人生を踏み出そうとする力強い決意。作品を理解する手掛かりは第4交響曲作曲中のシベリウスの日記にある次のくだりにも見られます。「交響曲というものは、結局、ありふれた意味での“創作”ではない。むしろ人の生涯のさまざまな局面での信条を明らかにするようなものなのだ。」痛ましくもむき出しの魂の告白、真摯な自分探しに近いもの。シベリウスにとって交響曲は、なかでも第4番はその性格が顕著な内容といえるでしょう。死を意識してひたむきに生と対峙する作曲者の姿に自らを重ね合わせるかのように、デイヴィスはつぎのように述べています。「シベリウスを指揮することは、ちょうど鏡で自分を見るようなものです。私は鏡をのぞいて、人生の無慈悲さを悟ります。それでも、私は先へと進み続けるための強さを見出すのです。シベリウスは人前では幸せでしたが、独りのときは落ち込みました。わたしと同じなのです。」こうした熱い意気込みを胸に二晩に渡り演奏された第4番ですが、すでにガーディアン紙やオブザーバー紙でも伝えられるとおり、出来栄えはまさしく迫真そのもの。この日、念願であったシリーズの完結を万感の思いで臨んだ巨匠を前にして、信頼厚いLSOも燃えないはずがありません。冷え冷えとした感触と潤いを湛えた弦の美しさに、いつもながらの強力無比のブラスがこれに応えます。なお、フィナーレにおけるチューブラーベルズの楽器指定については、ここでボストン響盤と同じく、グロッケンシュピールと両方をユニゾンで使用しています。この第4番とは対照的ともいえる明快な内容を持つ第1番は、両日共に後半、キーシンとのシューマンに続いて取り上げられ、デイヴィスがLSO首席指揮者として迎えた最後のシーズンのオープニングということでも注目を集めたもの。musicOMH.comのレヴューは、第2楽章のチェロ首席モレイ・ウェルシュを筆頭に、弦楽セクション、ティンパニ、ブラスといったLSOの反応を称える一方、やはりデイヴィスのシベリウスに対する本能的センスがお手本というほかないと絶賛していました。前回から12年ぶり、手兵LSOとは2度目となる、ライヴによる巨匠デイヴィスのシベリウス全集。2002年9月収録の第6番以来、完成までに6年の歳月を要しましたが、じゅうぶんに待った甲斐はあったというべきでしょう。心底愛してやまないシベリウスに対するエキスパートの思いの丈が込められており、いずれ劣らず期待を裏切らない内容となっています。(Ki) |
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LSO-0606(2SACD)
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ベルリオーズ:聖三部作「キリストの幼時」 |
ヤン・ブロン(語り手、百人隊長:T)、
カレン・カーギル(マリア:Ms)、
ウィリアム・デイズリー(ヨゼフ:Br)、
マチュー・ローズ(ヘロデ:Bs-Br)、
ピーター・ローズ(家長、ポリュドールス:Bs)、
テネブレcho、コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2006年12月3&4日(ライヴ) |
楽団5人目のプレジデントに就任してますます意気盛んなわれらが巨匠デイヴィス。手兵LSOを率いてようやく念願のベルリオーズ・シリーズを再始動させました。最新アルバムは前作(1976年)から30年ぶり、ふたたび同じLSOとの「キリストの幼時」ライヴ。聖三部作と名づけられた「キリストの幼時」は、マタイによる福音書第2章、ヘロデ王の幼児大虐殺と聖家族のエジプトへの逃避行の物語を題材にし、文才にも長けたベルリオーズ自らが仏語のテキストを準備しています。まず第2部“エジプトへの逃避”が(1850年)、つづいて第3部“サイスへの到着”、最後に第1部“ヘロデ王の夢”(1854年)という順に作曲されましたが、成立の経緯は込み入っていて、ほんのふとしたことで、パーティーの席で座興から一気に書き上げられたわずか3分ほどのささやかな合唱曲(第2部「羊飼いの聖家族への別れ」の原型)がその発端。さらに、ベルリオーズはこれをわざと偽り架空の17世紀仏の作曲家によるものであることにして発表し、意外にも大好評を得てしまったといういわくつきの作品でもあります。「キリストの幼時」は最終的に演奏時間100分近くを要する大曲とはなったものの、「ファウストのごう罰」や「レクイエム」にみられた巨大な編成や激情に替わり、いたって簡潔で意識的に古風なスタイルが採用され、平穏と静けさが支配する音楽となっています。そう、まるでこれはバロック・オペラ。ほかにも異例といえば、本来キリスト者ではないベルリオーズの手によってこうした聖書にまつわる内容の作品が書かれた点といい、なにもかもがおよそベルリオーズのイメージからは遠いようにもみえますが、様式や手法よりもリアルな表現そのものを重視する斬新さという点で、これはこれでまた鬼才ならではの特異な才能が開花したジャンルといえるのではないでしょうか。独特のスタイルで貫かれた「キリストの幼時」において、リズムの冴えや管弦楽法にもまして目を見張るのが声楽の扱い。いくぶんマタイ受難曲の福音史家を思わせるように、語り手の朗唱で幕を開ける第1部。語り手として本来予定されていたボストリッジ以上に最高のはまり役との惜しみない賞賛を受けたのは、ミンコフスキのプロダクションでおなじみのヤン・ブロン。この上なく明瞭無垢で得難いリリック・テノールの声質を申し分なく備えた逸材です。そのブロンと並んで、当演奏に奇跡を起こしたのが若手の精鋭合唱グループ、テネブレ。もとキングズ・シンガーズのナイジェル・ショートが2001年に結成したアンサンブルは、しばしばロウソクの灯りのみが燈された空間で歌い、アレグリやタヴナーといった宗教作品においてとびきり透明度の高い歌唱を聴かせる注目株。繊細な表現と美しいハーモニーの安定感は抜群です。起用されたゲストが揃って大健闘となればもちろん、デイヴィスに心からの尊敬を寄せてやまないLSOも奮起しないはずがありません。たとえば第3部中ほど、2本のフルートとハープのためのトリオを聴いてみてください。その潤いに満ちた響きにどれほどなぐさめられ救われることか。かねてよりデイヴィスの声楽作品への関心の高さは知られるところとはいえ、“コーラル・ブロックバスターズ(合唱の超大作)”と銘打たれたシリーズに、よりによって「キリストの幼時」を用意するあたりは、いかにも“ベルリオーズのエキスパート”らしい自信とこだわりとを感じさせます。さらに、この6月に演奏会形式で上演されるオペラ「ベンヴェヌート・チェルリーニ」のリリースも今後に控えており、当コンビによって再開されたベルリオーズ・シリーズへの期待は大きく高まります。 (Ki) |
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LSO-0607
(2SACD+DVD)
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ヘンデル:オラトリオ「メサイア」 |
スーザン・グリットン(S)、
サラ・ミンガルド(Ms)、
マーク・パドモア(T)、
アラステア・マイルズ(Bs)、テネブレcho、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2006年12月10-12日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ)
※カラー16:9サラウンドステレオ/NTSC/Region0/音声:英語/字幕なし |
2007年9月25日で80歳の誕生日を迎えるわれらがデイヴィス。2006年12月12日を最後に、彼は11年間にわたりその任にあったLSOの首席指揮者を勇退。LSO
Live最新アルバムはヘンデルの最高傑作「メサイア」ライヴ、デイヴィスが首席指揮者としての最後の晴れ舞台に選んだ、とっておきのプログラムです。1742年のダブリン初演以来、もっとも広く演奏され愛されている国民的なオラトリオ「メサイア」。ヘンデルの天才はただ巨大な合唱を扱った宗教的な荘厳さにあるばかりでなく、聖書からまとめられたテキストを通じて、キリストの生誕と死、そして復活をときに親しみやすく、ときにドラマティックに迫真を込めて描いているところにあります。こうしたストレートでわかりやすくセレモニアルな内容から、「メサイア」はいまや英国のクリスマス・シーズンには欠かせない風物詩となっています。これまでにも折に触れて声楽を擁する大掛かりな作品を取り上げて、そのすぐれた腕前には定評がある巨匠デイヴィス。LSOとのメサイアではすでに前回のスタジオ盤(1966年)がモダン楽器によるスタンダードとの位置づけを獲得していますが、このたびのライヴの特色としては、ピリオド・アプローチを意識した試みが随所に挙げられます。まず、ソリストにミンガルドやパドモアらいずれも古楽の確かな実績を積んだ顔触れを揃えていること。デイヴィスとの共演機会も豊富なグリットンはマクリーシュのプロダクションでおなじみのソプラノ。なかでもきわめつけはバスのマイルズ。第2部「いかなれば、もろもろの国民は」と第3部「トランペットは鳴りて、死人は朽ちぬ者に蘇り」では、そのゆるぎない音程、流れるようなレガート、力強い発声をはっきりと確かめられるはず。さらに、これらソリストたちをもしのぐ活躍をみせたのがコーラス。あえて前回の録音に参加したロンドン交響合唱団に替えて迎えられたのは、最強の秘密兵器テネブレ合唱団。同じくバロック調の響きが求められた「キリストの幼時」(LSO.0606)に続いての起用はまさしくこの場にふさわしいものといえるでしょう。じっさい、ここでも透明度の高い歌唱はたとえようもなく、ハーモニーの陰影と色彩は音楽に劇的なコントラストを生んでいます。たとえば、第1部終曲の合唱「主のくびきはやすく、主の荷は軽し」。カノンで歌われる入りはきびきびしたアーティキュレーションが際立ち、レビューでも“これ以上に的確で情熱的なものはあるはずがない”(フィオナ・マドックス−英イヴニング・スタンダード)と絶賛されています。そして、いままさに絶頂にあるLSO。編成を絞ったオケではヴァイオリンに対向配置が採用され、旋律の掛け合いがとても効果的。また、オリジナル楽器のレプリカを使用したトランペットなど、デイヴィスの意欲的な取り組みは例外なくオケにも向けられています。思えばLSO
Liveがスタートした2000年、その第1弾としてドヴォルザークの「新世界より」(LSO.0001)で登場したのがほかでもないデイヴィスでした。いまでは一般的となったオケによる自主制作盤リリースに先鞭をつけた彼こそは、いわばLSOの救世主。ロンドン初演で感極まったジョージ2世にならい、客席の聴衆も一斉に立ち上がるのが慣習となっているハレルヤ・コーラス。エネルギッシュなタクトのもと高らかに響き渡るとき、あらためてLSOのプレジデントとして復活することをみずからここに予言しているかのようにも感じられます。なお、当セットには期間限定でシリーズ初の特典としてDVDビデオが付属します。11トラックにおよぶライヴ演奏のハイライトとデイヴィスのインタビューは、無上の感動に包まれた一夜を巨匠とともに分かち合えるなによりのプレゼントとなることでしょう。 |
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LSO-0623(2SACD)
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ベルリオーズ:歌劇「ベンヴェヌート・チェッリーニ」 |
グレゴリー・クンデ(チェッリーニ)
ローラ・クレイコム(テレーザ)
ジョン・レリア(教皇クレメンス7世)
アンドルー・ケネディ(フランチェスコ)
イザベル・カルス(アスカーニオ)
ジャック・インブライロ(ポンペーオ)
ダーレン・ジェフリー(バルドゥッチ)
ピーター・コールマン=ライト(フィエラモスカ)
アンドルー・フォスター=ウィリアムズ(ベルナルディーノ)
アラスデア・エリオット(カバラティア)
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO&ロンドン交響cho
録音:2007年6月26&29日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)プロデューサー:ジェイムズ・マリンソン/エンジニア:ジョナサン・ストークス&ニール・ハッチンソン |
巨匠デイヴィスがキャリアの総仕上げともいうべき段階に入り、手兵LSOを率いていままた手がけるベルリオーズ。シリーズ最新作の「ベンヴェヌート・チェッリーニ」は、前作「キリストの幼時」に先立ち2007年6月に演奏会形式で上演され、あらためて巨匠の傾ける情熱と驚くほど生き生きとした音楽づくりがガーディアン紙ほかでも大きく扱われて話題になりました。ルネサンス時代に実在したフィレンツェの彫金師ベンヴェヌート・チェッリーニ(1500−1571)の自叙伝にもとづくこのオペラ。その波乱に富んだ生涯を綴った内容に劣らず、ローマ帰りのベルリオーズが徹底的に自らのやりたいことをやりつくした結果、初演からたった4回で公演が打ち切りとなり大失敗に終わっています。ヴァイイーとバルビエの台本は、主人公チェッリーニとテレーザの恋愛模様を軸に、これに横恋慕するフィエラモスカらの陰謀、さらに教皇より制作を依頼された像の行く末も絡み、見た目にも絢爛たる謝肉祭の描写さらには流血シーンありと、すべてが大団円を迎えるラストまでドキドキハラハラのストーリー展開が用意されています。誰もがみとめるベルリオーズの音楽の真髄、すなわち爆発的なエネルギーの原動力となる鮮明で大胆なリズムおよび、華麗な色彩効果と密接な対位法処理に象徴される、驚くべき独創性は、本作にしっかりと息づいています。にもかかわらず、初演の折に聴衆がそうしたのとまったく同じように、その演奏至難さゆえに演奏家からも長らく遠ざけられ、上演はおろか配役することさえもほとんど不可能とされたのです。そして、デイヴィスによる旧録音(BBC響・1972年)から30年以上の時を経た今でさえ録音もけっして多いとはいえず、ましてや実演でかかることは稀というのが現状の「ベンヴェヌート・チェッリーニ」。ところで、無念のベルリオーズがオペラのエッセンスを掬い取り、あらたに生み出された序曲「ローマの謝肉祭」にはいくつかの重要な主題が登場します。これらチェッリーニとテレーザによる愛の二重唱、謝肉祭の場面におけるサルタレッロのリズムと旋律などはそれでもほんのごく一例にすぎません。こんなものではまだまだとても収まり切らないほどオペラ全体は聴きどころの宝庫。そしていま、このオペラの異常なテンションとほんとうの魅力を伝えることが出来るのは、まさしく巨匠デイヴィスをおいてほかにいないでしょう。しかもなんともすばらしいタイミングで、いまのかれはそれが実現可能なLSOとロンドン交響合唱団という願ってもない武器を手中に収めているのですから。さらにソリストについても云うことなし。タイトル・ロールにはネルソン盤でも同役を務めたクンデに、ノリントン盤でのテレーザ役も高評価のクレイコムと経験ゆたかなふたりを筆頭に、よくぞここまで揃えたという強力な布陣です。デイヴィス会心の作、LSOとのあらたなる「ベンヴェヌート・チェッリーニ」。これぞベルリオーズのスタンダードにふさわしい傑作であることを教えてくれるアルバムがついに誕生となります。 (Ki) |
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LSO-0628(2SACD)
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ハイドン:オラトリオ「天地創造」 |
サリー・マシューズ(S天使ガブリエル、イヴ)、
イアン・ボストリッジ(T天使ウリエル)、
ディートリヒ・ヘンシェル(Br天使ラファエル、
アダム、ロンドン交響cho、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2007年10月7日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
ハイドン歿後200周年を迎える2009年、LSOLiveがおくる超強力盤はデイヴィスによる「天地創造」。巨匠が80歳の誕生日を迎えるシーズンの呼び物のひとつとして、2007年10月におこなわれたライヴです。「天地創造」は晩年の2度にわたる英国滞在中に、「メサイア」などヘンデルの大作におおいに触発され着想した、その規模内容ともにハイドンの最高傑作といわれるオラトリオ。旧約聖書の「創世記」と「詩篇」、ミルトンの「失楽園」をテキストの題材として、神による創造の第1日から第4日まで、生き物が出現する第5日と第6日、そしてアダムとイヴの登場と、創世の七日間を時系列に沿って3部構成で描いています。このように直截的にキリスト教的世界観で彩られた内容と、絵画的ともいうべき巧みな手法でわかりやすく活写される動物たちの魅力や、大合唱が動員されて聞き栄えすることなどから、欧米ではとりわけ人気も高く特別な作品として迎えられています。こうした作品だけに「天地創造」は、すぐれた腕前で声楽作品を意欲的に取り上げてきたデイヴィスにふさわしいものとおもわれます。このたびの特色としてデイヴィスはヴァイオリン両翼型配置を選択。舞台下手から第1ヴァイオリン、チェロ、指揮者のすぐ正面に通奏低音、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、上手奥にコントラバスという具合に、2006年12月の「メサイア」(LSO.0607)のときと同じくヴィブラートも控えめに、あきらかにピリオド・アプローチを意識したアプローチを行なっている点も注目されます。なお、声楽陣では「優秀さがあまりに凄すぎてそのためかあまり強調されることがありません」(クラシカルソース・ドットコム)という、LSOに匹敵するもうひとつの手兵ロンドン・シンフォニー・コーラスに加え、目を引くのが名実ともにスター歌手を揃えたソリストたち。クリスティ盤のラファエルや、ヤーコプスの「四季」でのシモンが知られるヘンシェル。ミンコフスキの指揮でザルツブルク音楽祭2009でも同名役を歌う予定の、英国の誇りボストリッジ。そしてデイヴィスのお気に入りでマシューズという顔触れが並んでいます。あらためて、当ライヴが取り上げられた時期については、デイヴィス80歳ガラ・イヴニングとして9月に行なわれたモーツァルトの「レクィエム」(LSO.0127,0627)、さらに12月のティペットの「われらが時代の子」(LSO.0670)、そして前作、翌2008年4月のマクミランの「聖ヨハネ受難曲」世界初演(LSO.0671)という流れにあって、この上ない充実ぶりをみせているという事実も見逃せないところでしょう。 (Ki) |
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LSO-0660(2SACD)
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マーラー:交響曲第3番ニ短調 |
アンナ・ラーション(A)
ロンドン交響合唱団女声合唱、
ティフィン少年cho
ワレリー・ゲルギエフ( 指)LSO
録音:2007年9月24日ロンドン、バービカンホール(
ライヴ) |
LSO-0661(1SACD)
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マーラー:交響曲第6番イ短調「悲劇的」 |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2007年11月22日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
2007年1月1日よりLSO第15代首席指揮者に就任したワレリー・ゲルギエフ。2007/08年の今シーズンに、あらたなシェフが手兵LSOと取り組んでいる真っ最中の一大プロジェクトがマーラーの交響曲全曲シリーズ。なんともすばらしいことに、このたびリリースがLSO
Liveで実現することに決定しました。ゲルギエフにとって初のマーラー録音となる第1弾は、2007年11月22日本拠バービカンにつづき、24日ブリュッセルのパレ・ド・ボザール、そして25日アムステルダムのコンセルトへボウでも大きな話題を呼んだ第6番「悲劇的」。ひとくちにいってゲルギエフ&LSOによる当演奏の特徴は、アルバム一枚に収められたことからもわかるように全曲を通じたその快速テンポにあります。“速く力強く、しかし過度にならないように”という指定を無視して、なにかに追われるようにひたすら突進する第1楽章。さらに、ちょうどマリス・ヤンソンスがLSOを振った第6交響曲のライヴ(2003年10月/LSO.0038)と同じく、第2楽章に置かれたアンダンテ。マーラー屈指の麻薬的な美が凝縮したこの場面でさえも、けっして完全なる陶酔を約束してはくれず、フィナーレにいたっては崩壊寸前までさらに加速度を増してゆきます。この一見あまりに無謀かのように思える速すぎるテンポ設定こそ、ゲルギエフがマーラーの内包する神経症的側面をえぐり出し、現代に生きる不安と焦燥を掻き立てあらためて呈示するための必然的選択だったのではないかと思えてくるのです。「フィナーレでの2度の運命のハンマー打撃で、ハリウッド映画の手に汗握るカーチェイスのようにじつに刺激的。巨大な木槌を担当した打楽器奏者は、まぎれもなくオスカー受賞に値するパフォーマンスをした。」(タイムズ紙)「(アダージョでの)カウベルの不思議なほど柔らかいパッセージにおいてさえ、郷愁を誘う余地が皆無で、夢というより悪夢のように響いた。もしこれがこのシリーズの展開の兆候であれば、わたしたちはなにかすばらしいものに出会えそうだ。」(テレグラフ紙)「ゲルギエフの神経症的なアプローチは、突如マーラーのものと完全に一致していた。」(インディペンデント紙)力強さと確信に満ちたゲルギエフと手兵LSOによる、まったく新しいマーラー像を予感させる大注目のシリーズ。賛否両論を巻き起こすことは覚悟の上、好むと好まざるとにかかわらず、今後に最高の話題を提供しつづけるのはまちがいないでしょう。 |
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LSO-0662(1SACD)
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マーラー:交響曲第4番ト長調 |
ラウラ・クレイコム(S)
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2008年1月12日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)
プロデューサー:ジェイムズ・マリンソン
エンジニア:0822231166221ニール・ハッチンソン&ジョナサン・ストークス |
【LSOによるマーラーの第4交響曲のレコーディング】
第1番とならんでマーラーの交響曲のなかでも、親しみ易い魅力にあふれる自作「歌曲」との関連やサイズがコンパクトなこともあり、いち早く人気を獲得していた第4番。これまでにLSOは、1961年にブリテンとオールドバラでライヴ録音(BBCB8004・廃盤)、1989年にモリスとセッション録音、2002年にはプレヴィンの指揮でライヴ録音(未発売)しています。
【ゲルギエフによる個性的なアプローチ】
現代に生きる焦燥と不安を煽り立てるかのようなアプローチを聴かせた第6番(LSO0661)など、これまでのシリーズの流れからもわかるように、第4番もゲルギエフの手にかかるとなにかありそうな予感がよぎります。特徴的なのが第3楽章。「緩徐楽章において、ゲルギエフは、音楽に内在する霊感を見失わずに、滞りなく先へと音楽を進めることによって、なにかすぐれた、ほんとうに不思議なことを成し遂げた。そのほかの部分をどう思われたとしても、この演奏はまさにそこに価値があった。」(ガーディアン紙)
第3楽章の壮絶さでは、ゲルギエフとはタイプは異なるものの、どこか同じロンドンを舞台に異常なマーラー演奏を繰り広げたテンシュテットが1976年に南西ドイツ放送響とおこなったライヴ録音なども思い起こされます。レビューの伝える模様から、その出来ばえにおおいに期待したいところです。
【クレイコムが華を添える第4楽章】
「ラウラ・クレイコムが、“天上の生活”における子どもがみた楽園のながめをこのうえなくデリケートに歌い上げたフィナーレでようやく、もしかして力強さには不足していたとしても、ほんとうにマーラーの精神が呼び覚まされたのだ。」(タイムズ紙)
独唱のクレイコムは、2003年にライヴ収録されたティルソン・トーマス盤での歌唱も光りましたが、ゲルギエフ盤ではどのような表現で応えているのかにも注目されます。
【佳境にさしかかるゲルギエフのマーラー】
「マーラーの第4番を彼のシンフォニーの中でもっとも穏やかなものだと思っている人たちは、ゲルギエフの徹底的な演奏解釈によって、その考えに疑問を投げかけられたと気づいたかも知れません。明るくて、のどかな牧歌的であるのとはほど遠く、これはなにか安らかなノスタルジアというよりはむしろ不安や緊張になりがちなものでした。演奏をたいへん魅力的に、そして音楽をひどく気がかりなものにしたのは、おそらく安らぎと懸念との間のこうした苦闘でした。[中略]全般的な印象は、新鮮に表現され、いやおうなしにどっぷりと引きつけるマーラーの第4番でした。」(デイリー・テレグラフ紙)
ただ、漫然と演奏を受け容れることを許さないところが、いかにもこのシリーズらしさを象徴しているようにも思われます。ますます意識的に挑発するような刺激で迫るゲルギエフとLSOによるマーラー・シリーズも、第5番と第9番の残すところあと2作。なお、ゲルギエフとLSOは、2010年秋のアジア・ツアーのプログラムにマーラーを予定していることからも、これはぜひともおさえておきたいところです。 (Ki) |
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LSO-0663(1SACD)
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マーラー:交響曲第1番「巨人」 |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2008年1月13日ロンドン・バービカンホール(ライヴ) |
首席指揮者ゲルギエフを立てLSO Liveがその看板にかけて、鳴り物入りでスタートさせたマーラー交響曲全曲シリーズ。各紙のレビューが真っ二つに割れたことが示すとおり、第2弾「巨人」もまた、聴き手を唸らすかなり個性的な内容となっています。期待と関心の高さから実演の数ヶ月前にはすでにチケットが完売したといわれる、ゲルギエフによる「巨人」。本来、マーラーのシンフォニーのなかでも比較的親しみ易いものであるはずの作品ですが、そこは鬼才ゲルギエフ。ここでも既存のマーラー観をことごとく破壊しようとでもするかのように、挑戦的なアプローチが随所に試みられています。たとえば第3楽章。いつものメランコリックなにおいが減退したのに反比例して、これまで描かれたことのない魅惑の場面があらたに提示されているのはなんとも刺激的な体験です。“葬送行進曲をもじった緩徐楽章では、断片的に少なからず魅力があり、すべてが過剰なほどはるかに洗練されていた。しかも、ほんのわずかだけれども、なかには絶妙に研ぎ澄まされた弦の演奏により、申し分のない満足感が得られた。”―クラシカルソース・ドットコムこのほかにも大胆なテンポの設定に始まり各声部の出し入れと、初めて気付かされる驚きの仕掛けがいろいろと施されていることに気付くでしょう。そしてついにゲルギエフの野獣的な感性が一気に爆発して大荒れのフィナーレへとなだれ込みます。“そう、アッチェレランドは発狂したように速かった。しかし、詰まった鼻が一気に通るようなフィナーレの叫喚は、私がLSOから聞いたなかでも最も刺激的なことのうちのひとつでだった。”―インディペンデント・オン・サンデーおもえば、このような思い切ったアプローチがアイデア倒れに終わることなく成立可能な背景として、指揮棒なしのゲルギエフのニュアンスに難なく応えられるほどに、じつはLSOがマーラーをレパートリーの血肉としているという事実も見逃せないところ。それにしても、あたかもマーラー自身が創作過程でもがいたのを辿るかのように、賛否が渦巻く中で指揮者が試行錯誤を繰り返しながら進めてゆく、こんなマーラーのシリーズがかつてほかにあったでしょうか。“ゲルギエフは絶え間なかった。すなわち攻撃性と不調和は、すべてが終わるまでステージを占拠していた。もし、心の奥底からの、背筋がゾクゾクする、危ういマーラーが好みならば、これこそまさにあなたにピッタリだ。…ほんとうにLSOはゲルギエフのために興奮しながら演奏している”―ガーディアン紙従来とは一線を画すマーラー像を打ち立てることに強い意欲を燃やすゲルギエフによる「巨人」。やはり物議をかもした第6番(LSO.0661)がふたを開けてみれば圧倒的な支持を受けている状況から、ありきたりの演奏にもはや飽き足らない真のマーラー好きには大いに歓迎されるにちがいありません。 (Ki) |
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LSO-0664(1SACD)
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マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調 |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2010年9月26日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
【ゲルギエフにとってのマーラーの第5交響曲】
1907年に、マーラーがサンクトペテルブルクを訪れた際にロシア初演をおこなった交響曲第5番。「学生時代に、ラインスドルフ指揮ニューヨーク・フィルのサンクトペテルブルク公演を聴き、生での初めてのマーラー体験だった」と語るこの曲について、ゲルギエフは来日時のインタビューでも「マーラーの中期を代表し、中核となる作品」と位置付けていました。【アニヴァーサリーに合わせたLSOとの第5交響曲再演】
ゲルギエフとLSOはマーラーの交響曲第5番を、2007/08年のシーズンを通してかれらとして初めて取り組んだ交響曲全曲演奏シリーズ中の2008年3月にも演奏しています。その際にも「もっとも攻撃的なアダージェット」(タイムズ紙)とセンセーショナルに取り上げられましたが、つねに変化を続けるゲルギエフ&LSOにあって、こうしてまたマーラーのアニヴァーサリーに合わせて再演に踏み切っていることからも、第5交響曲に対するゲルギエフの意気込みの強さがうかがい知れるところです。
【カリスマ指揮者ゲルギエフに食らいつくLSOの大熱演】
「マーラーについてバーンスタインから話を聞き多くを学んだ」と自身認めるように、ゲルギエフのマーラーもまた、時に崩壊寸前、極端とも云えるテンポ設定が生み出す独特の濃厚な表現が特徴的。第5交響曲は複雑長大で、全篇の落差も大きく、動きの激しい曲ということで、また、上述のゲルギエフの個人的体験に加味すると、マーラーの交響曲の中でもゲルギエフのアプローチがもっとも映える作品といえるのではないかとおもわれます。じっさい、ゲルギエフとLSOが同じく第5番を演奏した11月28日の東京公演は、爆演と呼ぶべき壮絶なものでしたが、初顔合わせより20年来切望した結果、ようやくゲルギエフを首席指揮者に迎え入れることがかなったLSOのメンバーたちが、絶大な信頼を寄せるカリスマに必死で食らい付いて演奏する姿が印象的でした。このアルバムでも、首席トランペット奏者フィリップ・コッブによる葬送ファンファーレから、フィナーレ最後の一音の爆発まで、LSOの絶好調ぶりを確認できるはずで、息つく間もない、たまらなくスリリングな内容が繰り広げられているものと期待されます。なお、ゲルギエフとLSOによる話題騒然の当シリーズ、2011年3月に収録予定の第9番をもって堂々の完結となります。 (Ki) |
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LSO-0665(1SACD)
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マーラー:交響曲第7番「夜の歌」 |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2008年3月7日ロンドン、バービカン・ホール(ライヴ) |
有無を言わせぬ強引なアプローチで話題騒然のゲルギエフ&LSOによるマーラー・シリーズの第3弾は、前日に行なわれた第5番につづいて連夜の公演となった第7番「夜の歌」。マーラーの交響曲のなかでもなぞめいた曲と云われる第7番は、じつはそのぶん個性ゆたかな録音の数々で知られる作品でもあります。筆頭に挙がるクレンペラーの冷徹演奏のほか、それぞれ方向性の異なる2種のライヴがあるテンシュテットが英国発というのも奇遇ですが、偉大な先人に肩を並べるほどゲルギエフ&LSOのライヴもまた十分個性の際立つ内容といってさしつかえないものです。全曲を通じての特徴は、第6番(LSO.0661)のケースと同様にかなり速めのテンポを採用していること。不気味な暗さで開始され、主部に入り追い詰められた気配を強めてゆく第1楽章。‘地獄の踊り’(インディペンデント紙)と評されたスケルツォは‘当夜における全曲の白眉’(ミュージカル・クリティシズム・ドットコム)。これを挟むふたつの夜曲は、快活なテンポで軍楽の要素が強調された第2楽章、やはりかねて思い描くよりも速く、ますます苦々しいパロディの印象を与える第4楽章のどちらも徹底して感傷を排した趣きとなっています。ついに神経症的アプローチのきわめつけは操状態で一気に駆け抜けてゆくフィナーレ。「これ(ゲルギエフによるフィナーレのアプローチ)がまったくマーラーが意図するものであったかどうかは、わたしにははっきりと分かりません。けれども、終りまで疲れを知らない輝きに満ちたLSOの木管に力を与えられ、(フィナーレは)過激という以外の何ものでもなかった。」(インディペンデント紙)なかには戸惑いをおぼえ拒絶する向きもあるいっぽうで、いったいなにをしでかすのか、先の読めないハラハラドキドキする感覚に中毒症状を起こすファンが続出という事態を迎えている、ゲルギエフ&LSOのマーラー・プロジェクト。いよいよ7月9日と10日には、シリーズ最後の録音にふさわしく名刹セント・ポール大聖堂での千人の交響曲ライヴを控えていますが、まだまだこのコンビの行方に目が離せそうにありません。 (Ki) |
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LSO-0666(2SACD)
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マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」、
交響曲第10番〜アダージョ* |
エレーナ・モシュク(S)、
ズラータ・ブルィチェワ(Ms)、ロンドン交響cho、
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2008年4月20-21日、2008年6月5日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)* |
「予測できないことこそが特徴」(フィナンシャルタイムズ紙)と云われるゲルギエフ&ロンドン響によるマーラー・シリーズの第5弾は、2008年4月に行われた第2番「復活」。全5楽章からなる「復活」は、絶望の淵そのものというべき葬送行進曲に始まり、美しくおだやかな第2楽章、自作歌曲「パドヴァの聖アントニウス」と相関関係にある第3楽章を経て、深々としたアルト朗唱による「原光」、ついに、クロップシュトックの復活讃歌をモチーフに、合唱を大掛かりに動員して感動的なフィナーレで閉じられるという、きわめてドラマティックで明快な内容となっています。シリーズでこれまで聴かせてきたように、速めのテンポを基調とするストレートで剛直なゲルギエフのアプローチは、長大な作品を一掴みに聴かせようとするもので、こうした曲想にふさわしいと思われます。なお、ソリストにいずれも当シリーズでは初めて、実演や録音でもおなじみの手兵マリインスキー劇場のチームより迎えているのも注目されるところです。カップリングは、2008年6月に行われた第10番のアダージョ。当日前半のプログラムとして第9番全曲と同日に演奏されたもので、ここでも速めのテンポが特徴となっています。LSOの弦楽セクションは「非の打ち所がなかった」(クラシカルソース・ドットコム)と伝えられており、こちらも大いに期待が持てる内容といえそうです。 Ki) |
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LSO-0668
(1SACD)
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マーラー:交響曲第9番 |
ワレリー・ゲルギエフ( 指)LSO
録音:2011年3月2 & 3日ロンドン、バービカンホール(
ライヴ) |
=ゲルギエフが第9 交響曲を集中的に取り上げていた時期のレコーディング=
2010 年8 月に行われたインタビューで、ゲルギエフは第9
交響曲について「取り組むたびにその奥深さに惹かれる」と語っていましたが、上記LSO
と の演奏に先駆けて、ゲルギエフは2010 年7
月に、もうひとつの手兵マリインスキー劇場管を指揮して、ドイツのラインガウ音楽祭とシュレスヴィヒ=ホルシュ
タイン音楽祭でも、マーラーの第9 交響曲を演奏し成功を収めています。(
出典:「ワレリー・ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団来日公演2010
プログラム」 cKAJIMOTO より)
=アニヴァーサリーに向けて周到な準備を重ねた第9
交響曲LSO 再演=
LSO Live におけるゲルギエフのマーラー・シリーズは、前作の第5
番を除いて、スタートの第6 番より第7 作の第4
番までのすべてのリリースが、 LSO Live におけるゲルギエフのマーラー・シリーズは、基本的に2007/08
年のシーズンを通して行われた交響曲全曲演奏会をライヴ収録してゆく形が
採られていますが、例外的に第5 番がこの流れから2
年半のちの2010 年9 月の演奏となっていました。
2008 年6 月にもゲルギエフとLSO はマーラーの交響曲第9
番を演奏していますが、先の来日公演中の記者会見で、ゲルギエフは「我々はレコーディン
グというものを非常に重要視しています。レコーディングは、オーケストラの団員との関係を育みながら進めていくもの。何度も演奏をし、経験と時間を
重ねてから録音することには、とても大きな意味があるのです」(
以上、2010/11/25 14:50 cCDJournal.com より引用・c
株式会社音楽出版社) と も述べていたので、ここに至るまでの進境の変化にも注目したいところです。
ゲルギエフのマーラー・シリーズでは、やはり再演という形で万全の準備を重ねてレコーディングに臨んだ第5
番が高評価を得ているだけに、第9 交響 曲の内容にも同様の成果を期待できるものと思われます。 |
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LSO-0669(1SACD)
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マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」 |
ヴィクトリヤ・ヤーストレボワ(ST罪深き女)、
アイリッシュ・タイナン(SU贖罪の女)、
リュドミラ・ドゥディーノワ(SV栄光の聖母)、
リリ・パーシキヴィ(MsTサマリアの女)、
ズラータ・ブルィチェワ(MsUエジプトのマリア)、
セルゲイ・セミシクール(Tマリア崇拝の博士)、
アレクセイ・マルコフ(Br法悦の神父)、
エフゲニー・ニキティン(Bs瞑想の神父)、
エルサム・カレッジcho,
ワシントン・コーラル・アーツ・ソサエティ,
ロンドン交響cho、
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2008年7月9&10日ロンドン、セント・ポール大聖堂(ライヴ) |
ゲルギエフ&LSOのマーラー・シリーズ第6弾は、2008年7月におこなわれた「千人の交響曲」ライヴ。その祝祭的な内容と実演でのプロジェクト締め括りにふさわしく、会場には1675年から18世紀初頭にかけて建設され、300年以上の歴史を数える名刹セント・ポール大聖堂が選ばれています。このたびゲルギエフ盤の会場となったセント・ポール大聖堂は、残響控えめの本拠バービカンとは大きく異なる音響環境。LSOによるマーラーの第8番の録音には、1959年のロイヤル・アルバート・ホールでのホーレンシュタイン盤(BBCL.4001)や、1966年のウォルサムストウ・アッセンブリ・ホールにおけるバーンスタイン盤などがありましたが、マーラーがスコアに書き込んだ「エコーつきのコーラス」がはからずも成立し得るという特殊な状況もあってのことでしょう。このことが演奏面でさまざまな影響を及ぼしているようにおもわれます。ゲルギエフは建物の構造に考慮して、大聖堂の横幅全体にわたって2つのコーラスを配置するという方法を採用することにより、ふつうのコンサート・ホールの垂直段に傾斜してゆく造りでは消えてしまうアンティフォナ(交唱)の対話を可能にしています。そのコーラスにはいつもの強力な手兵LSCと並んで、遠くワシントンDCからもよく訓練されたアンサンブルを迎え、これにエルサム・カレッジの精鋭児童合唱を加えています。ソリストも、前作第2番につづいてマリインスキー劇場のメンバーを含め、8人のうち7名までもロシア勢で固めるという、まさに万全の態勢で臨んでいることが覗えます。これまでゲルギエフのマーラーといえば、時に過度とも云える急速なテンポ設定にその傾向が顕れていました。考え抜いて第8番でゲルギエフは、なかでも、長大で複雑な第2部『ファウスト』の終章において、急に駆り立てる場面をのぞいて意外にも通常以上に緩やかなテンポを選択しています。結果として音楽にコントラストを生み、スリリングな効果を挙げるこうした判断もまた、ほかの作品のとき以上に密接な演奏環境の変化に応じたものとみるべきでしょう。作曲者自らの指揮による第8交響曲世界初演が「ミュンヘン博覧会1910」と題された音楽祭のハイライトして催されたのが1910年のこと。ほぼ一世紀の時を経て、ちょうど同じように、「シティ・オブ・ロンドン・フェスティバル2008」のメイン・イベントとして、熱狂的興奮に包まれたゲルギエフ&LSOのライヴ。鳴り物入りでチケットも早々に完売したことや、全2回の公演が異例の大成功を収めたことも符合してどこか運命的な巡り合わせさえ感じさせるものとなっています。 (Ki) |
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LSO-0670(1SACD)
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ティペット:オラトリオ「われらが時代の子」 |
インドラ・トーマス(S)、藤村実穂子(A)、
スティーヴ・ダヴィスリム(T)、
マシュー・ローズ(Bs)、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO&ロンドン交響cho
録音:2007年12月16&18日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
ティペットの信頼も厚いエキスパートとして、すでにBBC響(1975年)、シュターツカペレ・ドレスデン(2003年ライヴ)とこの作品の録音を残しているデイヴィスですが、声楽をともなう大掛かりな内容ということもあり音質面の優位性に加え、コーラスによる二重フーガなどの場面で空間再現性に威力を発揮するマルチチャンネルSACD仕様でのこのたびのリリースは大いに歓迎されるところです。「われらが時代の子」は非人道的行為に対する抗議と平和への希求というメッセージが結晶化された反戦大作。第2次大戦前夜、同胞への弾圧に対する義憤に駆られたユダヤ人青年によるドイツ人書記官暗殺に端を発した未曾有のユダヤ人排斥事件(いわゆる「水晶の夜」)はティペットを恐怖と怒りで大きく震撼させました。この出来事に駆り立てられ、ティペットが1939年から2年の歳月をかけて完成させたオラトリオは、ヘンデルのメサイアと、バッハのマタイ受難曲をモデルにしつつ、さらにバッハでのコラールに替えて「黒人霊歌」を採用するなどの独自の特徴がみられます。デイヴィスを超えられるのはやはりデイヴィスしかいない−目下最高の状態にある手兵LSOとのあらたな「われらが時代の子」は前人未到、3種目にしてもはやほかに比較するもののない孤高の域に達しているというべきでしょう。「かれ(サー・コリン・デイヴィス)がそうするほどに確信をもって、ティペットの断裂した線を結び合わせる巨匠などほとんどいないようにおもわれる。したがって、このあとに引き続いて起きるのは、われらが時代の子の衝撃的な演奏にほかならない。デイヴィスは全曲にひとを奮い立たせる活力と弾む調子とを吹き込んだ−それは深い情感を損なうというよりはむしろ強めた…かれはロンドン交響合唱団からとびきり痛烈な歌唱を引き出した…そしてソリストらもまた立派にこなした。」−タイムズ紙シベリウス、ベルリオーズにモーツァルトそしてティペット…キャリアの総仕上げの段階に入り母国に落ち着いて、LSO
Liveでは思い入れの深いプログラムのみをじっくりと取り上げている巨匠デイヴィス。当アルバムはティペットが投げかけた普遍的なテーマをいま、あらためてわたしたちに重く問い掛けるものです。 (Ki) |
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LSO-0671(2SACD)
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ジェイムズ・マクミラン:聖ヨハネ受難曲(世界初演)
*英語とラテン語による歌唱 |
クリストファー・モルトマン(Brキリスト)、
ロンドン交響cho(合唱指揮;ジョセフ・カレン)、
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2008年4月27日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
楽団のプレジデント、デイヴィスによるLSOLive最新アルバムは、マクミランの「聖ヨハネ受難曲」世界初演ライヴ。2007/08のシーズンに80歳の誕生日を迎えるデイヴィスのためにLSOによって、ロイヤル・コンセルトへボウ管(ベイヌム財団)、ボストン響そしてベルリン放送合唱団と共同で、マクミランに委嘱された完全新作です。「十字架上のキリストの最後の7つの言葉」(1993)を完成して以来、マクミランが避けては通れない次のステップとしてつねに意識し、その構想を暖めてきたという「聖ヨハネ受難曲」。全曲は2部構成で10の楽章からなり、第1楽章「キリストの逮捕」から第9楽章「キリストの死」までがソリストと合唱とを伴う形で進み、フィナーレSanctusImmortalis,misererenobisはオーケストラのみで演奏されます。また、テキストには英語による改訂標準訳聖書、そしてウルガータ(カトリックの標準ラテン語訳聖書)が採用されています。「ヨハネ受難曲」と聞いてまず誰しも連想するのがJ.S.バッハのそれでしょう。ここで特徴的なのが、バッハでのエヴァンゲリストに替えて、福音書の物語の進行役として14名編成の室内合唱(NarratorChorus)を、聖ペテロやピラトそのほかの役を担うメイン・コーラスとは別に置いていること。実演までの限られた時間とキャスト面の制約からマクミランが生み出したこのアイデアは、結果として上演のスピードアップに効果的でした。1959年生まれでグラスゴー在住、自身敬虔なカトリックであるマクミランは、社会主義とスコットランドへの愛国心に深く根ざした作風で知られ、これまでにメッセージ性の強い作品を数多く発表してきました。ここで、モルトマン演じるキリストに怒りと恨みに満ちた、仰仰しく雄弁な一節を大きく踏み込んで語らせていることでもあきらかなように、マクミランのオリジナリティは、キリストを、従順に運命を受け容れ十字架に向かう救世主ではなく、自分を苛む人の愚かさに対して罵るすさまじい反抗者として描いているところにも顕れています。このバリトンを含む声楽がすべての要といえるこの作品で、合唱を司るのはロンドン交響合唱団のジョセフ・カレン。マクミランの作品に造詣も深く、作曲者と創作初期の段階から綿密なやり取りを交わし周到に稽古を重ねてきたかれの力なくして、初演の成功が望めなかったことは疑いありません。そして、いうまでもなく、2007年11月にようやく書き下ろされたばかりの新作を献呈され、80歳を迎えたシーズンの総決算ともいうべき初演に臨んだデイヴィスの意気込みも忘れるわけにはゆきません。絶大な信頼を寄せる巨匠のもと、カーマイン・ラウリ、レノックス・マッケンジー、デイヴィッド・アルバーマンら、3人のヴァイオリニストの精妙なソロに象徴されるLSOのアンサンブルは一時間半を越える長丁場も乱れることなく、エネルギーも決して衰えなかったと伝えられています。時おり黙示録的なほとばしりを見せ、攻撃的に耳をつんざくファンファーレが鳴り渡ることはあれど、マクミラン作品の常として、小型の室内オルガンつきのオーケストラは一貫して抑制されたひびき。なかでもワーグナーの「パルジファル」第3幕を思わせるフィナーレはピュアで深遠なる美しさに吸い込まれそうになるほど。「カンタベリー大司教がスタンディングオベイションの口火を切るのを目撃することなど滅多にありません。けれども、ローワン・ウィリアムズ大司教は先週バービカンで、ジェイムズ・マクミランが記念碑的な聖ヨハネ受難曲の世界初演ののち舞台に登場し礼をして拍手に答えたとき、真っ先に立ち上がったそのひとりでした。あきらかに、大司教は、偉大な新作がレパートリーに加わったという熱狂的な聴衆の見方を共有しました。」(オブザーバー紙)J.S.バッハの傑作からほぼ3世紀近くを経て、同時代の旗手マクミランによってあらたに誕生した21世紀の「聖ヨハネ受難曲」。コリン・デイヴィス80歳の誕生日の願いは十二分に叶えられ、さまざまな条件にも恵まれて、今後スタンダードと成り得ることを予感させる圧倒的な演奏内容といえるでしょう。 (Ki) |
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LSO-0675
(1Blu-ray Disc Audio+5SACD)
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シベリウス:交響曲全集
(1)交響曲第1番ホ短調Op.39
(2)交響曲第2番ニ長調Op.43
(3)交響曲第3番ハ長調Op.52
(4)交響曲第4番イ短調Op.63
(5)交響曲第5番変ホ長調Op.82
(6)交響曲第6番ニ短調Op.104
(7)交響曲第7番ハ長調Op.105
(8)クレルヴォ交響曲Op.7
(9)交響幻想曲「ポホヨラの娘」
(10)交響詩「大洋の女神」 |
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
モニカ・グロープ(Ms)
ペーテル・マッティ(Br)
ロンドン交響cho男声合唱
録音:(1)2006年9月23-24日(ライヴ)
(2)2006年9月27-28日(ライヴ)
(3)2003年9月24日-10月2日(ライヴ)
(4)2008年6月29日-7月2日(ライヴ)
(5)2003年12月10-11日(ライヴ)
(6)2002年9月28-29日(ライヴ)
(72003年9月24日-10月2日(ライヴ)
(8)2006年9月18日&10月9日(ライヴ)
(9)2005年10月
(10)2008年6月29日&7月2日 |
サー・コリン・デイヴィス(1927-2013)は、ロンドン交響楽団と50年以上にわたって共演した、楽団にとっても特別な指揮者でした。広大なレパー
トリーを演奏したデイヴィスですが、とりわけシベリウスには思い入れが深く、‘シベリウスの巨匠’
と称され、このロンドン交響楽団とのチクルスは、‘もっ
ともすぐれたシベリウス全集の録音’ と世界中で絶賛されました。このたび、すべてをSACDハイブリッド、さらにブルーレイ・オーディオにすべてを収録。
あらたな次元で、デイヴィスと楽団のシベリウスを味わいつくすことができます。
※デジボックス仕様。それぞれのディスクはスリーブケースに収められています。 (Ki) |
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LSO-0677(1SACD)
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ラフマニノフ:交響曲第2番(完全全曲版) |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2008年9月20&21日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
【ゲルギエフ&LSOによる『ラフマニノフ・フェスティヴァル』】
2008/09年のシーズンのオープニングを飾ったゲルギエフ指揮LSOによる「ラフマニノフ・フェスティヴァル」。フィルム上映やプレ・トークなどのイベントも同時に催され大いに沸いた2008年9月20日、21日の2日間、マチネーを含む計3回のコンサートでは、アレクセイ・ヴォロディン独奏でピアノ協奏曲第3番と第4番、そして第1番から第3番までのシンフォニーが演奏されました。シリーズ第1弾となる交響曲第2番は、両日ともピアノ協奏曲との組み合わせで演奏されたもので、今後、交響曲第1番と第3番、ほかに交響的舞曲も順次リリースしてゆく予定となっています。
【15年ぶりとなるゲルギエフによるラフマニノフの第2交響曲再録音】
ゲルギエフは、ラフマニノフの第2交響曲を1993年にもうひとつの手兵マリインスキー劇場管とセッション録音しています。このときも当コンビ初のラフマニノフの交響曲録音でしたが、以来15年ぶり、いまや楽壇のカリスマとなったゲルギエフはもちろん、このたびレコーディングに起用された手兵LSOもまたラフマニノフの演奏にかけては定評のあるオケだけに、このたびの顔合わせにはさらなる期待が高まるところです。
【ラフマニノフとLSO】
そもそもLSOの演奏史を遡ると、ラフマニノフはピアニストとして同じ舞台に立っています。まず、1929年11月18日クィーンズ・ホールでアルバート・コーツ指揮、ピアノ協奏曲第4番の楽団初演を果たしているほか、1936年にハミルトン・ハーティの指揮で、さらに1938年にヘンリー・ウッドの指揮で、パガニーニの主題による狂詩曲を演奏しています。
【LSOによるラフマニノフの第2交響曲のレコーディング】
LSOによるラフマニノフの録音といえば、真っ先に思い浮かぶのは第11代首席指揮者アンドレ・プレヴィン(在任期間1968−1979)でしょう。LSOはプレヴィンの指揮で、交響曲全曲のほか「死の島」や「交響的舞曲」といった管弦楽曲や、また、アシュケナージをソリストにピアノ協奏曲全曲と、ラフマニノフのレコーディングを数多く残しています。第2交響曲については、LSOはプレヴィンと1966年にセッション録音(RCA)したのちに、交響曲全集企画として1973年に再度セッション録音(HMV)しています。なお、LSOは第2交響曲を1988年にロジェストヴェンスキー指揮でセッション録音(PICKWICK)しています。
ピアノ曲そのままに、ラフマニノフが思いのたけを込めた甘美なメロディが聴く人の心を強く締めつける第2交響曲。ゲルギエフによる新旧のレコーディングはいずれも完全全曲版による演奏ですが、マリインスキー旧盤(実測値58’50”)との比較では、LSO新盤は演奏時間も全体で3分ほど長くなっています。ライヴではよりいっそう畳み掛けるタイプのゲルギエフですが、ここは大きな構えでLSOをたっぷり歌わせているといえるのではないでしょうか。「ゲルギエフは本能で仕事をする人です。身も心もゆたかにする音楽、とりわけロシア・ロマン派ものは、ゲルギエフの長所を引き出します。」(フィナンシャル・タイムズ紙)
「身を乗り出すような興奮のパフォーマンス。(中略)こんどは、ゲルギエフの厳然とした 長所を引き出したのは、ラフマニノフの交響曲第2番でした。」(ガーディアン紙)
「いくつかの解釈上の選択でつまらないけちをつけるひとがいるかも知れないけれども、ゲルギエフが音楽について云おうとしているなにかを否定できなかった。これはかれのレパートリーであり、LSOは立派に応えた。第2交響曲についてはなにもかもがすべて正しいと感じた。」(クラシカルソース・ドットコム)ゲルギエフによるラフマニノフでは、つい最近もマリインスキー・レーベルでリリースされた、マツーエフとの「ピアノ協奏曲第3番&パガニーニ狂詩曲」の録音がおおきな反響を呼んでいますが、そこでの想像以上の充実ぶりと併せてLSOとの第2交響曲もまたすばらしい成果を提示してくれるものとおもわれます。 (Ki) |
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LSO-0681(1SACD)
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ウォルトン:オラトリオ「ベルシャザールの饗宴」*
交響曲第1番変ロ短調 |
ピーター・コールマン=ライト(Br)*
ロンドン交響cho*
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2008年9月28&30日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)*、2005年9月23日&12月4日ロンドン、バービカンホール(ライヴ |
■英国音楽のエキスパート、デイヴィス■
2006年より楽団創設以来6人目となるLSOのプレジデントを務めるコリン・デイヴィスが、LSOLiveレーベル立ち上げからベルリオーズやシベリウスと並び、力を注いできたのが自国イギリスの作曲家たち。デイヴィスが折に触れて語っていることからも知られるように、自国の音楽に傾ける情熱にかけては並々ならぬものがあり、エルガー、ホルスト、ブリテン、ティペット、マクミランと、そのディスコグラフィはきわめて高水準の出来ばえを示していました。
■ウォルトンの傑作「ベルシャザールの饗宴」■
「ベルシャザールの饗宴」は、当時22歳の若さで「ファサード」を発表して一躍人気を得て以来、それまで英国楽壇では異端児としてみなされていたウォルトンが、イギリス音楽界きっての保守主義の牙城である合唱音楽祭に挑む決定打として用意したオラトリオ。旧約聖書の「詩篇」と「ダニエル書」に基づき、オズバート・シットウェルが簡略化したテキストはおおまかにいって、次のとおりです。バビロニアにより捕囚の身となったユダヤの民は嘆き悲しんでいる。バビロニアの王ベルシャザールは、ユダヤ人の神器を用いて異教徒の神々を讃えて、ヤハウェを冒涜した。すると、饗宴ののちに奇蹟が起こり、ベルシャザールは死に至り王国は滅亡。ユダヤの民は自由を取り戻し歓喜の歌声を上げた。ここで物語を描くにあたり、ウォルトンはユニークな仕掛けを施しています。
■大規模で特異な楽器編成■
ウォルトンが指定した楽器編成は破格ともいえるもので、まず、通常のブラス・セクションとは別に、ステージ上と裏に分けて2群のバンダ(各3本のトランペット、トロンボーンに各1のチューバ)を配置。これはベルリオーズの「レクィエム」を引き合いにトーマス・ビーチャムがウォルトンに提案したとも云われ、加えてハープ2・チェレスタ1・オルガン、それにティンパニを含む総勢6名の打楽器群も動員。これらが豪華絢爛のスペクタクルを盛り上げるいっぽうで、アルト・サクソフォンなども起用され、ウォルトンが関心を寄せていたジャズの影響ものぞかせます。さらに、カギとなる合唱の扱いも凝っていて、ユダヤの民とバビロニアの民衆、さらには物語の語りを描き分けるため、混声四部合唱2組にバリトン独唱が採用されています。このあたり、地元オールダムで聖歌隊指揮者と声楽教師を務める父に見出されて、オクスフォード・クライスト・チャーチ聖歌隊学校に入学した経歴や、少年時代より合唱曲を作曲してきた経験が、遺憾なく発揮された成果とみることもできます。
■20世紀イギリス合唱音楽の傑作「ベルシャザールの饗宴」■
当初、BBCより小規模の合唱曲を委嘱され着手しながらも、ウォルトン生来の遅筆のため今日の形にまで拡大した「ベルシャザールの饗宴」は大規模な編成も特徴的ですが、内容の充実ぶりでも際立っています。コーラス・パートに代表される新鮮で生命力あふれる和声法や、ジャズやポピュラー音楽を思わせる錯綜とした楽想やリズムの感覚、のちにサントラも手がけるウォルトンの先駆けとも取れるゴージャスをきわめたサウンド、どれをとっても、まったく色あせないどころか、いま聴いてもかえって新しさを感じさせるという点にも驚かされます。なにより聴き応えのすることから、ウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」といえば、エルガーの「ジェロンティアスの夢」以降に書かれたイギリス合唱音楽のうちで、最も画期的な作品として、とくにイギリス本国において高い人気を獲得しています。なお、本作についてウォルトンはオラトリオというよりは3楽章の合唱交響曲と考えていた旨のコメントを残していることも、作品を理解する手掛かりとして興味深いエピソードといえるでしょう。
■LSOが初演を手掛けた「ベルシャザールの饗宴」■
ウォルトンは1948年から1957年にかけてLSOの第2代プレジデントを務めており、その在任中LSOはヴォーン・ウィリアムズやブリス、さらにはウォルトンよりも若い世代のブリテン、ティペットといった自国の作曲家たちの擁護に努めました。LSOは「ベルシャザールの饗宴」を、1931年10月8日にリーズ音楽祭においてマルコム・サージェントの指揮で初演していますが、これは同時にまた、LSOとともに波乱に富んだ歴史を歩み、身銭を切って特別のリハーサルを付けた、トーマス・ビーチャムにとっても云うまでもなく重要な初演でした。1951年に、英国博覧会の一部として行われた、LSO創立47周年記念演奏会でもサージェントは本作をふたたび指揮しています。ほかならぬウォルトンもLSOと、自身70歳のバースデイ・コンサートであった1972年3月28日にロイヤル・フェスティヴァル・ホールでたった一度だけ本作を指揮しています。さらに、この翌日と翌々日、1972年3月29、30日に、70歳の誕生日を迎えたばかりの作曲者立会いの下、LSOはアンドレ・プレヴィンの指揮で「ベルシャザールの饗宴」をセッションで初録音を果たしています。こののちLSOは1988年にも本作をリチャード・ヒコックスの指揮でセッション録音しています。
■デイヴィスによる「ベルシャザールの饗宴」■
かつてウォルトンがそうしたように、今ここにまたデイヴィスも英国音楽の普及に熱い取り組みをみせるそのひとり。「ベルシャザールの饗宴」が取り上げられた2008/09年のシーズンでは、シリーズ「継承者と反逆者の声(TheVoiceofHeirs&Rebels)」と題して、デイヴィスとLSOはほかにもエルガーの「海の絵」やヴォーン・ウィリアムズの交響曲第4番を演奏しており、これらの公演に寄せてコリン・デイヴィスは次のように述べています。『モーツァルトやストラヴィンスキーと同様に、ヴォーン・ウィリアムズとウォルトンもまだ生きていた間はとても人気がありましたが、亡くなると、彼らに対する関心は低下しました。結局、新しい世代が彼らの作品に才能の迸りを見つけ出して、ふたたび彼らの作品に取り組み、普及させるということです。』こうして巨匠デイヴィスのもと、「ベルシャザールの饗宴」では、ガーディアン紙ほかのレビューがこぞって伝えているように、好調LSOの誇るブラス・セクションのアンサンブルをも凌ぐほど、圧倒的な存在感をみせたのがロンドン交響合唱団でした。過去2度のレコーディングに参加した記憶が受け継がれているのでしょうか。とにかく表現のレンジがいたって広く、ときにしんと透明で瞑想的であり、ときに黙示録的な破壊力で迫り、やがて歓びの美しいハーモニーを聞かせて、この傑作にかなった理想的な歌唱で応えています。バービカン・センターの短めの残響もこうした大編成の作品ではむしろプラスに働く傾向にあり、切れ味と迫力あるサウンドを実現。モニュメンタルな作品のすぐれた演奏にふさわしい仕上がりとなっています。LSOはやはり初演を手がけた自負と強みからか、上記に挙げたように「ベルシャザールの饗宴」のすぐれたアルバムを過去にも残していますが、録音がきわめて優秀なこともあって、このたびのデイヴィス盤は今後本作のスタンダードとしてのポジションを獲得し得る可能性も十分と思われます。
■2005年収録の「交響曲第1番」をSACDフォーマットでリカップリング■
アルバム後半には、「ベルシャザールの饗宴」と前後して作曲され、同様にウォルトンきっての人気作である交響曲第1番をカップリング。こちらの音源は2006年にリリースされたものと同一の内容になりますが、SACDハイブリッド仕様盤(LSO0576)に限ってはすでに2年近く廃盤で入手難の状態が続いていたので、こうした形でのカタログ復活はなによりといえるでしょう。 (Ki) |
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LSO-0682(2SACD)
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プロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット」(全曲) |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2008年11月21&23日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
2008年秋に手兵LSOを率いた形としては初の来日公演を果たし、交響曲全曲と主要な協奏曲を含む「プロコフィエフ・チクルス」で大成功を収めたゲルギエフが、その直前に本拠バービカンでおこなったコンサートを収録したものです。「私はこの30年来、プロコフィエフのすべてのオペラを指揮して来ましたし、ほとんどすべてのバレエや映画音楽も指揮しています。彼のすべての作品を知っています。でも、まだ興味が尽きることはありません。」自身の言葉を裏付けるように、プロコフィエフをライフワークに位置付けるゲルギエフは、これまでに1988年以来の手兵マリインスキー劇場管と「3つのオレンジへの恋」「炎の天使」「修道院での婚約」「戦争と平和」といった主要なオペラとピアノ協奏曲全曲のレコーディングをおこない、LSOとは首席指揮者就任以前の2004年に交響曲全集シリーズを敢行、この模様を収めたライヴ録音盤はGramophone賞を獲得しています。「プロコフィエフの音楽はドラマチックなパワーを強くもっていて、特にバレエやオペラでそれを強く感じます。交響曲も彼の作曲人生の中で重要なジャンルですが、何と言っても本領は劇場のための作品にあります。プロコフィエフとは『ロメオとジュリエット』を書いた作曲家である、とさえ言えるでしょう。」シンポジウムで、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」についてこのように熱く語り、来日公演でも第1、第2組曲より計10曲を取り上げていたゲルギエフですが、どうしてもこだわりのあるレパートリーということもあるのでしょう。このたびのLSOとの新録音でも前回1990年のマリインスキー劇場管との録音と同じく、52曲からなる完全。これほどまでにゲルギエフが絶賛する「ロメオとジュリエット」は、パリから祖国に戻り、たまたま接したシェイクスピアの悲劇にいたく感動したプロコフィエフが、原作のバレエ化により実験主義的、モダニズム的手法から、シンプルで自然な手法、ロマンシティズムヘの転換点とするべく自らに課して創作に臨みわずか4ヶ月で一気に完成させた作品。彼の書いたバレエ・スコアのなかでももっとも長大で、もっとも激烈かつ劇的な作品である事実からも、プロコフィエフの強い意気込みがうかがい知れます。それだけに、ゲルギエフが作曲者の当初意図した完全な形での録音にこだわりをみせるのは当然のことなのかもしれません。ところで、LSOにとっても「ロメオとジュリエット」はなじみの作品といえ、1973年にプレヴィンが全曲版をセッション録音しているのをはじめ、1966年にアバドがハイライトをセッション録音、1978年にチェリビダッケ指揮のハイライトをBBCがライヴ収録、1983年にチェクナヴォリアンが組曲版をセッション録音(未発売)、1985年にヤン・パスカル・トルトゥリエが5曲をセッション録音という具合に、ここに至るまでの録音数も少なくありません。来日公演では、重厚なオスティナートで名高い第13曲「騎士たちの踊り(モンタギュー家とキャピュレット家)」や、荒々しい躍動感が横溢する第35曲「タイボルトの死」といったナンバーの扱いが、広大に取られたダイナミックレンジと情報量の多さとにおいて圧巻というほかないものでした。ただ、それにもまして強い印象を残したのが、たとえば、チャーミングで愛おしい第10曲「少女ジュリエット」や、また、来日時の実演でもやはり終曲に置かれていた第52曲、悲痛なまでの愛の昂ぶりが胸に迫る「ジュリエットの墓の前のロメオ」でみせた、美しく優しく繊細なメロディの表現。じっさい、ゲルギエフは「美しいメロディが重要なポイントであるプロコフィエフ作品の中にあって、もっとも美しいものが『ロメオとジュリエット』と思っている」とも述べています。「ゲルギエフとLSOのパフォーマンスはまったくすばらしかった。ただのありきたりのオーケストラの演奏水準とかではなく、ゲルギエフが、手兵から引き出した色彩ときめ細やかさの幅において、それはバレエの振付が無いことをほとんど問題としないものでした。」(クラシカル・ソース・ドットコム)来日公演とほぼ同じ時期に録音された当アルバムですが、プロコフィエフを知り尽くし、「ロメオとジュリエット」をこよなく愛する巨匠のもと、機能性抜群の手兵LSOは度重なる実演を通じてプロコフィエフのイディオムを叩き込まれていることから、ここに作品の魅力を完璧に描き尽くしたといってもいいでしょう。 (Ki) |
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LSO-0683(2SACD)
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ヴェルディ:レクィエム |
クリスティーン・ブルーワー(S)
カレン・カーギル(Ms)
スチュアート・ネイル(T)
ジョン・レリア(Bs)、ロンドン交響cho
ジョセフ・カレン(合唱指揮)
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2009年1月11&14日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
モーツァルトの「レクィエム」、ティペットの「われらが時代の子」、マクミランの「聖ヨハネ受難曲」、そしてハイドンの「天地創造」と、このところLSOLiveより立て続けに大作の声楽曲を発表している巨匠デイヴィス。ますます意気盛んなマエストロと手兵による最新録音はヴェルディのレクィエム。なお、この2009年1月の演奏会は、前年2008年11月23日に急逝したリチャード・ヒコックスの思い出に捧げられたものです。1976年にロンドン交響合唱団の音楽監督に就任したヒコックス(1948−2008)は、1991年にそのポストを離れた後も名誉指揮者、さらにはプレジデントを任じられ、1985年には客演副指揮者に迎えられるなどLSOともゆかりの深かったことで知られています。こうした背景もあってのことでしょう。ここでのオケ、合唱は共に特別な共感を寄せて演奏に臨んでいるであろうことは想像に難くありませんが、それはヒコックスの師であるデイヴィスとしてもやはり同じはず。1991年のバイエルン放送響とのセッション録音をはじめ、その長いキャリアとほぼ同じ期間に本作を取り上げ続けてきた経験より得た、力みのないひたすら自然な流れ。80歳を越えたデイヴィスの音楽に内在する高潔な志と無我の境地には強く打たれるものがあるというべきでしょう。「デイヴィスの生み出す燃えたぎる情熱、見識、的確さ、そして音楽の物語をデイヴィスがどのように把握しているかに耳を傾けてください…デイヴィスは、第1小節からヴェルディの真髄を突き止めていました。嘆き悲しんでいるのか、怒りで沸騰するかどうかに関係なく、ジョセフ・カレンの大軍はお手本というべきコンディションでした。というのも、私は、突き刺すような協和音と地獄の灼熱に導かれる、怒りの日における彼らの大声の猛攻撃からまだ立ち直れないでいます。ソリストはどうでしょうか?ここでも、わたしたちは恵まれました。サー・コリン・デイヴィスは、巨匠のタッチでヴェルディの激情と歌を表現しました…これは人生全体を悟る、確信に満ちた音楽家による円熟の譜読みでした。」(タイムズ紙ジェフ・ブラウン) (Ki) |
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LSO-0685(1SACD)
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バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」 |
エレーナ・ジドコーワ(Msユディット)、
サー・ウィラード・ホワイト(Bs-Br青ひげ公)、
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2009年1月27&29日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
2009年の1月に演奏会形式で上演され、白熱の模様がタイムズ紙ほかでも絶賛されたプログラムです。バルトーク唯一のオペラ「青ひげ公の城」は、青ひげとその新妻ユディットという、わずかふたりの登場人物と、大編成の管弦楽によって繰り広げられる激烈なるドラマ。シャルル・ペローの童話集「マ・メール・ロワ」の一篇を題材にしながら、シュールで象徴的な内容を孕んだ台本を手掛けたのは、バルトークとの名コンビで知られるべラ・バラージュ。血塗られた狂気の物語は進みます。わたしを愛しているなら鍵を渡し、城の7つある扉の向こうのすべてを見せてとせがむユディット。これに対して、何も訊かずにただ愛して欲しいと求める青ひげ。やがて、ついにユディットが過去の3人の女性とともに自らも第7の扉のなかに消えてゆくショッキングなラストまで、今でいうサスペンス・ホラーばりの緊迫したやりとりが見せ場となっています。「青ひげ公の城」といえば、LSOが1960年代に2度のセッション録音を行なっていることは広く知られています。まず、1962年にドラティの指揮で、次いで1965年11月には首席指揮者ケルテスという具合に、いずれもハンガリーの名匠に拠る点が共通していました。また、LSOは最近でも2008年5月にブーレーズの指揮で本作を“憑かれたように”(クラシカルソース・ドットコム)取り上げていることからも、本録音に向けての環境は十分整えられていたとみるべきでしょう。このたびはソリストも揃い、青ひげ役は絶大なる存在感で現代屈指の同役歌いとして知られながら、これが初録音となるホワイト。かれはまた、知的で雄弁な英語でプロローグの吟遊詩人による語り(ピーター・バルトークによる翻訳)も担当しています。ユディットにはスカラ座やネーデルラント・オペラでも同役を歌って、やはり当たり役とするジドコーワ。ロシア出身でベルリンを拠点に活動するメッツォは、ゲルギエフのお気に入りでプロムスやマリインスキー劇場にも登場しています。「ゲルギエフはありとあらゆる無数の色彩をこの鮮明なスコアから引き出しました。そしてユディットが第5のドアを開くとき、作品のクライマックスは息をのむようでした。…ユディット役のエレーナ・ジドコーワは、センセーショナルというにほかならないものでした。」(MusicOMH)すでに手兵マリインスキー劇場をはじめ、数々の劇場でオペラの場数を踏んできたゲルギエフですが、扇情的ということではなにより本作の内容はゲルギエフの志向と合っているように思われます。じっさい、ゲルギエフは今シーズンに予てよりの手兵マリインスキー劇場管とも4月23日にエカテリンブルクで、また25日にはモスクワのイースター・フェスティヴァルでも再演しています。マーラーのシリーズでも速めのテンポで現代に生きる不安や焦燥を抉り出すかのようなアプローチを聞かせていたことなども思い起こすと、ここでも一級の心理劇として描き出し、スコアの核心に迫るものと期待されるところです。 (Ki) |
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LSO-0688(1SACD)
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ラフマニノフ:交響的舞曲Op.45
ストラヴィンスキー:3楽章の交響曲 |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2009年5月7&8日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
ゲルギエフがLSOを指揮して、ラフマニノフの「交響的舞曲」とストラヴィンスキーの「3楽章の交響曲」を演奏したアルバムは、2008/09年のシーズンを通じてLSOが据えたプログラムのテーマ「Emigre(亡命者)」に因んで、祖国ロシアを離れアメリカ滞在時代に作曲された点の共通する組み合わせとなっています。
【交響的舞曲】
LSOは比較的珍しいことにその長い歴史の中で「交響的舞曲」を7度しか演奏しておらず、うち4回が1973年のアメリカ・ツアーにおけるプレヴィンとの顔合わせによるものでした。また、レコーディングもLSOは過去に3度、すなわち1958年にグーセンス指揮、1974年にプレヴィン指揮、1992年にワーズワース指揮でおこなっています。ゲルギエフとLSOによるラフマニノフといえば、やはりこれに先立って2008年9月のシーズン・オープニングを飾った「第2交響曲」が当コンビ屈指の出来栄えとして記憶されているので、その流れを受けて演奏された「交響的舞曲」にも同様のすぐれた内容が期待できそうです。
【3楽章の交響曲】
すでにゲルギエフはマリインスキー劇場管とは、その原始的な傾向が相通じる「春の祭典」や「結婚」といったストラヴィンスキーのバレエ音楽の録音を完了しており、そこでは緻密な設計により圧倒的なサウンドを聴かせていました。いっぽう、LSOがグーセンスの指揮で初めて「3楽章の交響曲」をレコーディングしたのは、1946年の世界初演から12年後、じつに半世紀以上前の1958年のことで、LSOが手掛けた「3楽章の交響曲」の実演での演奏回数も全部で20回以上といいますから、その頻度はむしろ高い数字といえるでしょう。以上を踏まえると、ゲルギエフ&LSOによる初のストラヴィンスキーはいかにも刺激的な取り合わせの予感十分で、期待度もかなりのものとおもわれます。 (Ki) |
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LSO-0689(1SACD)
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R・シュトラウス:アルプス交響曲 |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2008年6月8&10日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
【ハイティンク&LSO、ライヴによる再録音】
RCOとのセッション録音を経て、あらたにLSOとのライヴでのレコーディングという流れが、2003年と2004年に行なわれたブラームス、2005年から2006年にかけてのベートーヴェンの交響曲全集と共通する、ハイティンク指揮によるシュトラウスの「アルプス交響曲」。前回のRCOとの「アルプス交響曲」は名門の熟成されたひびきを存分に活かしたみごとな内容でしたが、以来じつに23年ぶりのハイティンクにとっての再録音は、LSOにとっても1990年のフリューベック・デ・ブルゴスとのセッション録音以来となるものです。
【傘寿を迎えた巨匠ハイティンクと黄金時代を迎えたLSO】
伝統ということにかけては1904年の楽団創設より一世紀以上の歴史があるLSO。2009年3月に傘寿を迎えたハイティンクに加え、プレジデントのコリン・デイヴィス、首席客演指揮者のハーディング、そして、あらたな首席指揮者ゲルギエフの加入による刺激もおおきな要因とおもわれますが、多彩な顔ぶれで、いままさに黄金時代を迎えています。「堂々たる暗闇より現われ、また暗闇へと陥ってゆき、ハイティンクとその手兵は作品のいかなるドラマにも敏感に反応していた。けれども、おそらくは、このうえない静寂の部分こそが、シュトラウスのスコアとこのパフォーマンスとで最も印象的であった。」(クラシカルソース・ドット・コム)「リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲のみごとなパフォーマンス。山頂への長い道のりが、ここまでたしかな決意をもって感じられたことはめったにありませんでした。ハイティンクが日の出の、そして夕闇におけるオーケストラの色彩を完璧に統率したことによって、ちょうど色彩の束が暗闇のモノクロームの輪郭から浮かび上がり、そしてふたたび陥ってゆくように、この演奏は、音楽それ自体をめぐる形而上学的な葛藤と克服を具現化するものとなりました。」(タイムズ紙)各紙レビューが伝える状況からも、ハイティンクとLSOがあらたに取り組んだ「アルプス交響曲」でどのような内容を聴かせてくれるのか、おおいに期待されるところです。 (Ki) |
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LSO-0692(1SACD)
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ドビュッシー:「海」〜3つの交響的スケッチ
バレエ「遊戯」*
牧神の午後への前奏曲# |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2009年9月20&24日バービカンホール(ライヴ)、2009年12月13&18日バービカンホール(ライヴ)*、2010年5月12&19日バービカンホール(ライヴ)# |
ドビュッシーは、ゲルギエフが2007年のLSO首席指揮者就任当初より定期的に取り上げてきた作曲家で、人気作『海』ほか全3曲を収めた期待のプログラムとなっています。ラヴェルの『ダフニスとクロエ』(LSO0693)とともに、2009/10年のシーズンのオープニングを飾ったドビュッシーの『海』。ゲルギエフは『海』を、1997年以来自らが指揮者を務めるワールド・オーケストラ・フォー・ピースと、2000年にBBCプロムスでライヴ録音していたので、9年ぶり2度目のレコーディングということになります。『海』といえば、数あるドビュッシー作品の中でもゲルギエフが一際好んで手掛けている作品としてよく知られ、アルバム併録の『牧神』が演奏された2010年5月19日、予定されていたラヴェルの協奏曲がグリモーの健康上の理由でキャンセルとなるアクシデントに見舞われた際、ゲルギエフが急遽プログラムをほかならぬこの曲に差し替えていることから、やはり自信のプログラムであることがうかがい知れます。なお、ここでの演奏の模様は、以前よりLSOによって演奏の一部がYouTubeでも公開されておおきな反響を呼び、ヴァイオリン両翼型配置を採用したオケの様子やソロをとる首席奏者たちの表情に加え、とりわけ『風と海との対話』におけるゲルギエフのエネルギッシュな指揮ぶりなど、まさに見た目の迫力そのままのセンセーショナルな内容を今もじっさいに確かめることができます。こちらはきわめて優秀な音質を実現した、前述の『ダフニスとクロエ』とはレコーディングの条件も同一とおもわれるので、録音面の出来ばえもまず間違いないでしょう。さらに、いずれもディアギレフ率いるロシア・バレエ団によって舞台上演されたことで関連する2曲のカップリングも魅力たっぷり。1988年にマリインスキー劇場のオペラ部門の芸術監督、1996年にはマリインスキー劇場の芸術総監督に就任して、ここに至るまで、つねに劇場作品をコンサート・レパートリーの中心に据えてきたゲルギエフにとってはお手のもの。“ゲルギエフが想像力に富んだ舞踏の達人だった(タイムズ紙)”『遊戯』と、“絶好調のゲルギエフとLSO(インディペンデント紙)”による『牧神の午後』というラインナップは、ゲルギエフにとって初のレパートリーとなるという意味でも注目されるところです。アルバム全篇に通じる唖然とするほどゆたかな色彩感やリズムの切れ味は、過去にLSOが『海』『牧神』をストコフスキー、首席指揮者モントゥーやプレヴィンと録音し、また『遊戯』を、かつての首席指揮者で現首席客演指揮者ティルソン=トーマスと録音して、すぐれた演奏を聞かせていたことをもあらためて思い起こさせるもので、ラヴェルを指揮したケースと同様、LSOを起用したゲルギエフの見識の高さを示しています。 (Ki) |
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LSO-0693(1SACD)
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ラヴェル:バレエ「ダフニスとクロエ」(全曲)*
ボレロ*
亡き王女のためのパヴァーヌ# |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
ロンドン交響cho
録音:2009年9月20&24日ロンドン・バービカンホール(ライヴ)、2009年12月13&18日ロンドン・バービカンホール*、2009年12月13&18日ロンドン・バービカンホール(ライヴ)# |
まさにエネルギッシュという形容がぴったりのカリスマ指揮者ゲルギエフ。2010年11月末から12月にかけて、手兵LSOとともに2009年に続き当コンビ2度目の来日公演を控えるタイミングでリリースされる最新アルバムは、オール・ラヴェル・プログラム。すべてゲルギエフにとって初のレパートリーとなる注目の内容です。「ダフニスとクロエ」は、ドビュッシーやストラヴィンスキーなどと同様に、さながら一流作曲家の証明ともいうべき“ディアギレフの委嘱”により、ラヴェルが完成までに3年の歳月を費やして書き上げたバレエ音楽。ゲルギエフは1988年にマリインスキー劇場のオペラ部門の芸術監督、1996年にはマリインスキー劇場の芸術総監督に就任して、ここに至るまで、つねに劇場作品をコンサート・レパートリーの中心に据えてきただけに、LSOと本作を取り上げたのは自然な流れといえますが、すでにプロコフィエフやストラヴィンスキー作品などにおいて聞かれるように、スケールとディテール、どちらの表現にも完璧に対応できるすぐれた手腕を示していることからも、出来ばえにはおおいに期待がかかるところです。一方のLSOも、過去にモントゥー、プレヴィン、アバドといった、その時代の首席指揮者らと、また、ほかにケント・ナガノとも、ここに収録されたプログラムを含むラヴェルの主要なレコーディングを行っていることを踏まえると、ゲルギエフがこのたびのレコーディングにLSOを起用したのは必然なのかもしれません。さらに、「ダフニスとクロエ」のほか、カップリングの人気曲2作品も見逃せないもので、どちらかといえばパワーで押し切る印象を与えがちなゲルギエフが、繊細でしっとりとした表現にもあらためて非凡なセンスをみせる「亡き王女」。さらに極めつきは、いままでありそうでなかったゲルギエフの「ボレロ」。腕っ扱き揃いのLSOのなかにあって、ここでは終始やはりニール・パーシーのスネアドラムが光ります。やがて、狂乱の絶頂で開放されるゲルギエフのエネルギーのものすごいこと。この瞬間こそが、絶大なる人気ぶりの秘密といえるでしょう。ゲルギエフがLSOを率いて新境地を開くラヴェルの作品集。すでに次回作にはドビュッシーの「交響詩《海》」「バレエ《遊戯》」「牧神の午後への前奏曲」が予定されており、今後の動向には片時も目が離せそうもありません。 (Ki) |
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LSO-0694(1SACD)
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ニールセン:交響曲第4番「不滅」
交響曲第5番* |
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2010年5月6&9日バービカンホール(ライヴ)、2009年10月1&4日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)* |
【ニールセンとLSO】
ニールセンは生涯ただ一度の訪英の折に、デンマーク出身の英国王妃アレクサンドラに謁見していますが、彼女が列席した1923年6月23日のクィーンズ・ホールで、作曲者の指揮により、LSOは歌劇「仮面舞踏会」と劇音楽「アラディン」からそれぞれ数曲、交響詩「パンとシリンクス」、ヴァイオリン協奏曲、そして交響曲第4番を演奏しています。
【LSOによるニールセンの交響曲録音】
LSOによるニールセンのレコーディングで特に注目すべきものが、1973年から1974年にかけてオレ・シュミット(1928−2010)の指揮でUNICORNへおこなわれたステレオ・セッションによる交響曲全集でしょう。コペンハーゲンに生まれたシュミットによる録音は、同郷人の寄せる熱い共感にもとづく内容のゆたかさから1975年のニールセン賞を獲得し、英国におけるニールセンの普及にも大きく貢献した点で重要ですが、今後2011/12年のシーズンまでつづくと伝えられるデイヴィスとのシリーズが完成すれば、LSOにとっては2種目、じつに38年ぶりの全集レコーディングということになります。ちなみに、LSOはほかにも1967年にアンドレ・プレヴィンの指揮で交響曲第1番をセッション録音、1974年にフランソワ・ユイブレシュトの指揮で交響曲第3番をセッション録音しています。
【デイヴィス念願のニールセン・プロジェクト】
「ニールセンは強迫観念にとり憑かれていて、本当に執拗なのです…シベリウスよりはるかにずっと狂気を孕んでいるのです」インタビューでニールセンについてこのように述べ、シベリウス同様に長年、ニールセンの音楽を激賞してきたデイヴィスですが、意外にもこれまでほとんどどんな作品も指揮してきませんでした。それだけに、このたびの交響曲全集プロジェクトにかける意気込みも一入といったところでしょう。いま、とてつもなくパワフルな最高の手兵LSOを得て、デイヴィスがようやく83歳にして初めて取り組むニールセンのプロジェクト。デイヴィスの熱くひたむきな思いもまたまさに“消しがたきもの”にほかなりません。
【演奏のレビューから】
「ニールセンの音楽は、LSOのために書かれたとおもっていいかもしれません。つまり、オーケストラの強靭なサウンドと自由な精神のテンペラメントは、このシンフォニーにおける名手の要求と本能的なダイナミズムとに適っているからです。デイヴィスもまた、ベートーヴェン流の対立の構図をニールセンの音楽に見出しています。デイヴィスは、シンフォニーのタイトル、“滅ぼし得ざるもの”に値するヴァイタリティで、作品を指揮しました」(フィナンシャル・タイムズ)
「[交響曲第5番は]ほとんど聞き取れないものから非常に大きな音まであらゆるダイナミックレンジを示し、広範囲にわたる音色を提示します。オーケストラの各セクションには見せ場が用意されていますが、けれども第1楽章を通してずっと絶え間なく続くスネアドラム・ソロ(ニール・パーシーが勇気と賞賛に値する技術で示した)と、同じく終結部での美しいカデンツァ風のクラリネット・ソロ(アンドルー・マリナーによってみごとに奏でられた)とはおそらくもっとも忘れられない瞬間です。サー・コリン・デイヴィスは、このうえなく献身的な取り組みと興奮のパフォーマンスという点で秀でていました。」(ミュージカルクリティシズム・ドット・コム) |
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LSO-0696
(1SACD+DVD)
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ゲルギエフ〜初のラヴェル・アルバム
バレエ「ダフニスとクロエ」(全曲)
ボレロ*
亡き王女のためのパヴァーヌ#
■ボーナスDVD[PAL]
ラヴェル:ボレロ(全曲) |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
ロンドン・シンフォニーCho
録音:2009年9月20 & 24日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)
2009年12月13 & 18日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)*
2009年12月13 & 18日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)#
■ボーナスDVD[PAL]
収録:2009年12月18日/ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
首席指揮者ゲルギエフがロンドン響を指揮して、初めてラヴェルの作品をレコーディングしたアルバムは、当代きってのカリスマが持ち前のバレエへの適
性を示したみごとな内容によりすでに高評価を得ています。
すぐれた録音でも注目され、ベストセラーを続けているこのアルバムに、あらたに「ボレロ」全曲演奏を収めたDVD(PAL仕様)同梱仕様版が登場します。
いままでありそうでなかったゲルギエフの「ボレロ」は、映像で観るとインパクトも絶大。ニール・パーシーのスネアドラムに始まり、順々にソロを取る腕っ
扱き揃いのメンバーの表情はもちろん、絵になるゲルギエフの指揮姿をバッチリと捉えたカメラワークも効果的。演奏終了後に立ちあがって割れんばかり
の拍手を送る聴衆の熱狂ぶりも納得の出来栄えとなっています。 (Ki) |
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LSO-0700(2SACD)
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ヴェルディ:歌劇「オテロ」 |
サイモン・オニール(Tオテロ)
ジェラルド・フィンリー(Bs-Brイヤーゴ) アラン・クレイトン(Tカッシオ)
ベン・ジョンソン(Tロデリーゴ)
アレクサンドル・ツィンバリュク(Bsロドヴィーコ)
マシュー・ローズ(Bsモンターノ)
ルーカス・ヤコブスキ(Bs伝令)
アンネ・シュヴァネヴィルムス(Sデズデモナ)
エウフェミア・トゥファーノ(Sエミーリア)
ロンドン交響cho
コリン・デイヴィス(指)LSO
*イタリア語歌唱
録音:2009年12月3&6日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ) |
長年にわたるイギリス音楽の普及と若い世代に向けた音楽教育の関わりへの多大なる貢献が認められ、女王陛下より2009年度のクィーンズ・メダル・フォー・ミュージックを叙勲されたコリン・デイヴィス。LSOLive2010/11年シーズン最初のリリースは、ヴェルディの「オテロ」。その晴れがましいニュースが初めて公表された機会に、巨匠率いるLSOによってコンサート形式で上演されたプログラムです。
【コヴェント・ガーデン時代のデイヴィスによる『オテロ』】
デイヴィスにとって「オテロ」とは、そもそもコヴェント・ガーデンの音楽監督時代(1971−1987)にもたびたび取り上げているこだわりのレパートリー。記録によると、デイヴィスはロイヤル・オペラハウスによるプロダクションとして、1972年にジョン・ヴィッカースを表題役に立てて1公演、1980年に再度ヴィッカースで1公演、1983年にはプラシド・ドミンゴがオテロを歌い3公演を全曲上演しています。この間ほかにもコヴェント・ガーデン歌劇場管とともに、1977年にオテロをドミンゴ、デズデモナにマーガレット・プライスを迎えてガラ・コンサート形式で上演しています。デイヴィスはコヴェント・ガーデン歌劇場管と、1978、1979年に「仮面舞踏会」を、1980年に「トロヴァトーレ」をともにセッション録音していますが、あいにく「オテロ」についてはチャンスがありませんでした。
【手兵LSOとの顔合わせによる『オテロ』】
1995年にLSO首席指揮者に任命されたのち、さらにデイヴィスは1999年にもLSOと「オテロ」をバービカンにおいてコンサート形式で取り上げ、このときはホセ・クーラをオテロに迎えています。このように「オテロ」に情熱を傾けてきたデイヴィスですが、LSOLiveにおける2004年収録の「ファルスタッフ」(LSO0528,0055)や、あたらしいところでは2009年1月のヒコックス追悼演奏会における「レクィエム」(LSO0683)でも示して明らかなように、ここに至る巨匠のヴェルディへの適性を疑う余地などないでしょう。それにしてもここでのデイヴィスはとても82歳とは思えぬ、驚くべき白熱ぶり。それもエネルギーの爆発にみせる凄まじさは、人間のむき出しの感情を表現し尽くしてなお余りあるものがあります。巨匠デイヴィスがようやく初レコーディングを実現した「オテロ」。各紙レビューですでに報じられている内容からも圧倒的な手ごたえを約束してくれるものとおもわれます。
【センセーショナルな“オテロ”デビューを飾った注目株オニールほか歌手について】
タイトルロールのサイモン・オニールは、1971年ニュージーランドのアシュバートン生まれ。ドミンゴの代役として「ワルキューレ」のジークムントでMETデビュー。以降、ジークムントを当たり役として、パッパーノ指揮のコヴェント・ガーデンやラニクルズ指揮のMET、最近も2010年6月のフィリップ・ジョルダン指揮のバスティーユ・オペラで起用され、国際的な舞台での評価を急速に上げているといいますから、ドラマティックな歌唱が決め手となるオテロの資質にも十分期待がもてそうです。ちなみに、本公演はドミンゴにオテロを師事したオニールにとってオテロ・デビューとなるもので、2012年にはスカラ座でバレンボイム指揮でも当役を歌うことが決まっています。イヤーゴを心憎いほどに演じ切ったジェラルド・フィンリーは1960年モントリオール生まれ。シューベルトやシューマンのリートでのこまやかな性格的歌唱も冴えるカナダのバリトンです。異色のキャスティングといえるのが1967年ルール地方のゲルゼンキルヒェンに生まれたドイツのソプラノ、アンネ・シュヴァネヴィルムス。ワーグナーやシュレーカー、ことにR.シュトラウスものでは不動の地位を獲得しているシュヴァネヴィルムスもヴェルディは未知数でしたが、聴かせどころの第4幕「柳の歌」では完璧な美しさを披露。ほかではともに英国出身で若手イケメンのテノールふたり、アラン・クレイトンとベン・ジョンソンも存在が光っていました。
【当夜のレビューから】
「オニールは、本物のトランペット・トーンの最高音の声を備えており、また、あらゆる真の戦士のように怖れを知りません。ドミンゴをふくむ、この役どころのひじょうにおおくの名歌手たちは、バリトン寄りのヘルデンテノール・タイプで固められているので、ひとりの若い歌手が最高音をまちがいなく決めるのを聴くことは、興奮はしなかったけれども、斬新でした。(中略)じっさい、オニールが細心の注意を払い、表情ゆたかにテキストを扱ったことで大詰めの場面でほんとうに胸がいっぱいになりました。」(インディペンデント紙)
「サイモン・オニールは表題役ですばらしいデビューを果たしたことで、最近10年間に出てきたヘルデンテノールのなかでも最高の歌手であることを世に知らしめた。初舞台を踏んだもう一人、ジェラルド・フィンリーは際立って明快で蛇のようにもっともらしいイヤーゴであった。」(デイリー・テレグラフ紙)
「ここでの真の『ヴェネチアの獅子』はコリン・デイヴィス卿であった。つまり、バービカンの舞台から爆発したヴェルディの「オテロ」初めの強大な嵐のように、40歳かそこらに振舞う80歳かそこらであり、どこからみても最高司令官だった。」(インディペンデント紙)
「演奏全体は興奮させるものでした。久しくコリン・デイヴィス卿はわたしたちの音楽人生の中心に留まりつづけるかも知れません!」(クラシカルソース・ドットコム) (Ki) |
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LSO-0701(2SACD)
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R・シュトラウス:歌劇「エレクトラ」[ドイツ語歌唱] |
エレクトラ:ジャンヌ=ミシェル・シャルボネ(S)
クリソテミス:アンゲラ・デノケ(S)
クリテムネストラ:フェリシティ・パーマー(Ms)
エギスト:イアン・ストレイ(T)
オレスト:マティアス・ゲルネ(Br)
監視の女 / クリテムネストラの腹心の女:エカテリーナ・ポポワ(S)
第1の下女:オリガ・レフコワ(Ms)
第2の下女 / クリテムネストラの裾持ちの女:エカテリーナ・セルゲーエワ(Ms)
第3の下女:ワルワラ・ソロヴィエワ(A)
第4の下女:タチヤナ・クラフツォワ(S)
第5の下女:リヤ・シェフツォワ(A)
若い下僕:アンドレイ・ポポフ(T)
年老いた下僕 / オレストの扶養者:ヴヤニ・ムリンデ(Bs-Br)
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO&Cho
録音:2010年1月12 & 14日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
LSO首席指揮者の姿と併せて、マリインスキー劇場の芸術総監督としての顔を持つ「当代のカリスマ」ゲルギエフが、劇場の実演で「影のない女」「サ
ロメ」などを取り上げ、シュトラウス作品の舞台上演に情熱を傾けてきたことはよく知られています。そのゲルギエフの「エレクトラ」がLSO
Liveに登場。 2010年1月にLSOを指揮して本拠バービカンで行った演奏会形式による上演の模様をライヴ収録したものです。
前作「サロメ」の大成功から3年ぶり、ギリシア悲劇を換骨奪胎したホフマンスタールの台本を得て、シュトラウスが書き上げた「エレクトラ」はまたし
ても血なまぐさく凄惨な内容とさらなる激烈な音楽で有名なオペラ。不協和音、半音階の多用、調性のあいまいさといった近代的手法を駆使し、ワーグナー
の「リング」を凌ぐ巨大編成の管弦楽が、“不義密通ののちに実父を殺害した実母とその愛人に対して姉弟らが復讐を遂げる”
という筋立てを盛り上げる のに絶大な効果を生んでいます。
数あるシュトラウスのオペラのなかでも、死、暴力、性的抑圧、復讐といったテーマが遍在する「エレクトラ」となれば、ゲルギエフのドラマティックな芸
風との相性の良さを容易に想像できるところですが、「エレクトラ」ヘのゲルギエフの並々ならぬ入れ込みようは、豪華なキャストの起用からもうかがうこ
とができます。 スポレートでの第4の下女役で作品の魅力に開眼して以降、エレクトラ役を追究してきたというジャンヌ=ミシェル・シャルボネは、近年ドイツや近代のレ
パートリーで頭角をあらわすアメリカのドラマティック・ソプラノ。妹のクリソテミスに、2011年バーデン=バーデンの「サロメ」が強烈な印象を残した
アンゲラ・デノケ、母親クリテムネストラ役には2005年のビシュコフ盤でも知られるヴェテラン、フェリシティ・パーマーと主要3人の女性がなんとも強力。
これに心理描写のうまさで定評のマティアス・ゲルネが弟オレスト役で加わり、しかも主役級のほかに脇をマリインスキー劇場のオペラ・カンパニーのメン
バーを呼び寄せて固めるというのですから、もはやこれ以上ない万全の態勢というほかありません。
ゲルギエフの「エレクトラ」は、絶好調のLSOから重厚かつ多彩な響きを存分に引出しながら、大迫力の歌唱で堂々とオケと渡り合う歌手たちへの目配
りもさすがというべきで、長年オペラで培った豊富なキャリアをあらためて証明する完成度となっています。 (Ki) |
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LSO-0702(2SACD)
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ハイドン:交響曲集/コリン・デイヴィス
(1)交響曲第92番ト長調Hob.I:92「オックスフォード」
(2)交響曲第93番ニ長調Hob.I:93
(3)交響曲第97番ハ長調Hob.I:97
(4)交響曲第98番変ロ長調Hob.I:98
(5)交響曲第99番変ホ長調Hob.I:99 |
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:(1)2011年10月2 & 4日バービカンホール(ライヴ)
(2)2011年12月11 & 13日バービカンホール(ライヴ)
(3)2010年5月6 & 9日バービカンホール(ライヴ)
(4)2011年12月4 & 6日バービカンホール(ライヴ)
(5)2011年5月26日& 6月2日バービカンホール(ライヴ) |
コリン・デイヴィスがロンドン響を指揮してハイドンの交響曲を演奏したセットがLSO
Liveより登場。もちろんすべて初出で、ベルリオーズ、シベリウス、
ヴォーン・ウィリアムズの未発表音源が投入された愛蔵家版ボックス「サー・コリン・デイヴィス・アンソロジー」につづいて、こうして次々とかけがえの
ないドキュメントが日の目をみるのはなんともうれしい限りです。
1970年代半ばから80年代初めにかけて、デイヴィスはコンセルトヘボウ管を指揮して、「ザロモン・セット」を含む、ハイドンの交響曲19曲をオラ
ンダのPhilipsにセッション録音していますが、その優美で格調高い演奏内容は、モダン楽器のオーケストラによる古典派演奏のひとつの頂点を築いたデ
イヴィスのベスト・フォームとして、いまなお多くのファンの根強い支持を得ています。
以来、アルバム収録の5曲すべてが、デイヴィスにとっておよそ30年以上を経ての再録音となるハイドンの交響曲は、2010年と2011年に、最晩年
にしてまだまだ意欲旺盛な巨匠がニールセンの交響曲全曲にあらたに挑むということでも話題を集めたコンサート・シリーズで、各回の前半に演奏された
プログラム。ガーディアン紙をはじめ、演奏会評もこぞってたいへん好意的であっただけに出来ばえにはおおいに期待が高まります。
加えて、デイヴィスが同じくロンドン響を指揮してライヴ収録した2007年10月の「天地創造」(LSO0628)や2010年6月の「四季」(LSO0708)
でも確かめられるように、前回からここに至るピリオド・アプローチの成果も適宜盛り込まれるなど、新旧の比較も聴きどころのひとつといえそうです。 (Ki) |
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LSO-0708(2SACD)
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ハイドン:オラトリオ「四季」(ドイツ語歌唱) |
ミア・パーション(Sハンネ)
ジェレミー・オヴェンデン(Tルーカス)
アンドルー・フォスター=ウィリアムズ(Brシモン)
ロンドン交響cho(合唱指揮:ジョセフ・カレン)
キャサリン・エドワーズ(Cem)
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2010年6月26-27日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ)
プロデューサー:ジェイムズ・マリンソン
エンジニア:ジョナサン・ストークス |
■ハイドンの集大成的傑作『四季』■
「ハイドンの全創作の頂点はまさに『天地創造』と『四季』である」とは、近代的ハイドン研究の創始者カール・フェルディナント・ポールの有名な言葉ですが、ハイドンが到達した古典派様式の完成型との高い評価と人気で広く受容されているこの2作については、各々対照的な性格を備えていることがしばしば指摘されています。喩えていえば、神聖な天上の世界を扱った『天地創造』が宗教音楽とオペラ・セリアの総決算なら、農民の生活のなかに神への素朴な感謝を歌い上げる『四季』はオペラ・ブッファといったつくりで、そこでは、喜びにあふれた春の訪れや、秋の収穫を陽気にはしゃぐ姿などが、農民の目を通して一年という周期でじつに表情豊かに描かれ、明るく楽しさいっぱいの親しみやすさがおおきな特徴となっています。
■デイヴィスによる40年以上ぶりの再録音■
このたびのLSOとのライヴ盤に先立って、デイヴィスは『四季』をBBC響と1968年7月にウォトフォード・タウン・ホールでセッション録音をおこなっているので、じつに40年以上を経ての再録音ということになります。前回が英語による歌唱、通奏低音にはフォルテピアノが使われていたのに対して、このたびはドイツ語による歌唱、通奏低音もハープシコードへと変更されています。デイヴィスによる第1回目の『四季』がリリースされて以来、40年にも及ぶ歳月のあいだには、いわゆる時代考証派による「ピリオド・アプローチ」が隆盛となり、その本場のひとつイギリスでも、さまざまな経験や研究成果を積んだホグウッドやガーディナーらによって、ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンといった古典派の作品にもまたあらたな光があてられてきました。当然ながら、デイヴィスもその“洗礼”を受けているとみるべきで、ここでの演奏内容にどのような形で反映されているのかは気になるところです。
■ピリオド・アプローチを意識した新録音■
このたびの『四季』でも、前作『天地創造』に共通して、たとえばヴァイオリン両翼型配置を選択、ヴィブラートを控えめにするなどのはっきりとした特徴がみられるほか、当夜のメンバー表によれば、第1ヴァイオリン12・第2ヴァイオリン10・ヴィオラ8・チェロ6・コントラバス5という人数配分をデイヴィスは採用しています。この数字ですが、通常のLSOからみて、ここではかなり思い切った編成の刈り込みがなされていることは確かなようです。なお、オリジナル楽器による『四季』の演奏例として、参考までにフライブルク・バロック管を指揮したヤーコプスの録音では、弦楽パートはそれぞれ順に7・6・4・4・3となっていて、弦をのぞくパートの人数がデイヴィス、ヤーコプスとも22と同数ながら、デイヴィス新盤はそれでも、弦に限ってはまだほぼ2倍近いということになります。たた、そのいっぽうで、『天地創造』と『四季』の誕生に直接の動機を与えたといわれる、ヘンデルのオラトリオが、当時ロンドンでは数千人規模の大編成で盛んに上演され、その模様を目の当たりにして異常な感銘を受けたハイドンが、巨大な表現手段と圧倒的な演奏効果を自作に盛り込もうとしたと考えられることから、ここでのサイズの選択はそうした側面にもデイヴィスはじゅうぶん配慮した結果であるようにおもわれます。
■絶妙なバランスのとれたデイヴィスの演奏■
デイヴィスによる新旧の『四季』はいずれもモダン楽器のオケによる演奏というのが共通する特徴ですが、ここではっきりとした違いがみられるのが演奏時間です。BBC旧盤が138分だったのに対して、このたびのLSO新盤が130分と、全体で8分も短くなっています。このテンポの変更にはピリオド・アプローチが影響していると考えるのが自然で、同じ方向性でデイヴィスがLSOを指揮した『天地創造』といい、2006年収録の『メサイア』といい、ここでもまた生き生きとした表情を獲得することに成功しています。このたびの『四季』では、長年に渡るデイヴィスとLSOの強い結びつきもあってのことか、モダン・オケの生み出す荘重なムードを湛えたオラトリオ的な迫力と、ピリオド・アプローチの鮮烈なインパクトとの絶妙なバランスが保持されており、じっさいにデイヴィスがどのような手腕を発揮しているのかをひとつひとつ確認するのもたいへん興味深い作業といえるでしょう。
■ソリストについて■
旬のソリストの顔触れも魅力的。小作人シモンを歌うアンドルー・フォスター=ウィリアムズは、イングランド北部ウィガンに生まれた英国のバリトンで、デイヴィスの『ベンヴェヌート・チェッリーニ』(2007)にも参加しているほか、ここ近年『メサイア』や『フラーヴィオ』など、ヘンデルのオラトリオの重要なリリースが続いている注目株。シモンの娘ハンネ役には、ボルトン指揮の『四季』でも同役を歌っていたスウェーデンの美声ソプラノ、ミア・パーション。そして、ファゾリス指揮の『四季』に次いで、若い農夫ルーカス役を担当するジェレミー・オヴェンデンは、タミーノやフェルランド、ドン・オッターヴィオなどを持ち役とするモーツァルト歌いで、実生活ではパーションの夫君でもある英国のテノールです。
■パワフルで柔軟なパフォーマンスで応えるロンドン交響合唱団■
「最後を飾る光栄はロンドン交響合唱団でした。安定したピッチ、歓喜とぬくもりは途切れることなく、ハイドンの伝えるすべてに飛びかかりました。」(タイムズ紙)このたびもコーラスにはロンドン交響合唱団が起用され、LSOLiveではモーツァルトやヴェルディのレクィエムから、近現代のティペットやマクミラン、そして、ごく最近のアルバム『ベルシャザールの饗宴』にいたるまで、これまでもデイヴィスの意図にみごとに応えてきた実績の通り、スリルに富んだ活力と創造力にあふれた内容を圧倒的な迫力で歌い上げています。き |
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LSO-0710(2SACD)
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チャイコフスキー:交響曲集
交響曲第1番ト短調Op.13「冬の日の幻想」
交響曲第2番ハ短調Op.17「小ロシア」*
交響曲第3番ニ長調Op.29「ポーランド」# |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2011年1月18 & 23日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)
2011年3月23 & 24日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)*
2011年5月20日チューリヒ、トーンハレ(ライヴ)# |
ゲルギエフ&LSOのチャイコフスキー・プロジェクト
2010/11年、2011/12年と2シーズンをかけて、ゲルギエフがLSOとともに取り組んだチャイコフスキー・プロジェクトは、マンフレッドを除く6つ
の交響曲を番号順に取り上げてゆくというもので、「紛れもなく聞き逃してはシリーズ」(ガーディアン紙)としておおきな話題を集めました。
当セットはそのシリーズの一環として計画され、まず、2011年1月に第1番が、次いで2011年3月に第2番が、共に本拠バービカンでライヴ収録さ
れたのち、第3番については2011年5月のバービカンでの定期公演を経て、同月20日にチューリヒのトーンハレでおこなわれた海外公演の演奏が採
用されています。
ゲルギエフによるチャイコフスキーの交響曲録音
これまでにもゲルギエフはチャイコフスキーの交響曲を複数回録音していますが、それらはすべて第4番以降の後期の3曲に限られていました。ウィーン・
フィルと第4番(2002年)、第5番(1998年)、第6番(2004年)をいずれもライヴ録音、マリインスキー劇場管と第6番(1997年)をセッション
録音していたほか、ゲルギエフは2010年1月にマリインスキー劇場管を指揮して第4番から第6番までを演奏したパリでのコンサートの模様を収めた
ライヴ映像作品を発表していましたし、ショルティ亡きあと自ら率いるワールド・オーケストラ・フォー・ピースを指揮して第5番を演奏した2011年のラ
イヴ映像作品もありました。
LSOによるチャイコフスキーの交響曲録音 いっぽう、1904年創立のLSOは、1921年には「悲愴」第3楽章をアルバート・コーツの指揮で録音した記録があり、さすがにチャイコフスキーの交
響曲録音の点数にはかなりのものがあります。初期の3曲だけをみても、コーツ指揮でSP時代の1932年に第3番全曲をアビー・ロード・スタジオでセッ
ション録音していますし、交響曲全集企画としても、イーゴリ・マルケヴィチ指揮で1965年3月に第2番と第3番を、次いで1966年2月に第1番を
いずれもウェンブリー・タウン・ホールでセッション録音、アンタル・ドラティ指揮で1965年7月に第1番、第2番、第3番をウォトフォード・タウン・
ホールでセッション録音していました。 このほかにもアンドレ・プレヴィンの指揮で1965年8月に第2番をウォルサムストウ・タウン・ホールでセッション録音、さらには1982年8月にジェフリー・
サイモン指揮で、1872年初版による第2番をセント・ジュード・オン・ザ・ヒル教会でセッション録音したという変わり種までありました。
LSOとの顔合わせが生む、ゲルギエフ熱血のチャイコフスキー
上述の後期交響曲集に限らず、これまでのゲルギエフはマリインスキー劇場管との実演・レコーディングを通じて、3大バレエを含む主要な管弦楽曲や協
奏作品、オペラも手掛けてきた実績がありますが、ここはLSOの起用が大当たり。
エネルギッシュで劇的な表現を得意とするゲルギエフに触発されて、地力と経験あるLSOのテンションの高さが際立つ内容は、陶酔と惑溺へと誘う美観
を湛えつつ、情感にあふれ、たいへん密度の濃い熱血の音楽となっています。フィナーレでは想像以上のものすごいエネルギー感で迫り、興奮と手ごたえ
を約束してくれるにちがいありません。 (Ki) |
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LSO-0715(1SACD)
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ニールセン:交響曲第1番ト短調Op.7
交響曲第6番「素朴な交響曲」* |
コリン・デイヴィス( 指)LSO
録音:2011年10月2&4日ロンドン、バービカンホール(
ライヴ)
2011年5月26日& 6月2日ロンドン、バービカンホール(
ライヴ)* |
高い評価を獲得した「不滅」& 第5 番からはや1
年あまり、巨匠コリン・デイヴィス指揮LSO 演奏のニールセン・シリーズに続篇が登場。このたびは、30
年以上を隔てて書かれたニールセン最初と最後の交響曲であり、古典的な4
楽章形式という点も共通する第1 番と第6 番というカップリングになります。ニールセン20
代半ばの1891 年から92 年にかけて作曲された交響曲第1
番には、第2 ヴァイオリン奏者として当時在籍していたデンマーク王立劇場オーケストラでの経験も反映されてのことか、全曲の構成や管弦楽様式にドヴォルザーク、特にブラームスの影響がみられると同時にまた、ニールセンの特徴として後世知られる進歩的な調性の兆しもすでに含まれています。ここでは、粗削りながら激しく若々しさに満ちた両端楽章に加えて、美しく牧歌的な中間楽章でもトロンボーン、ホルンあたりが大活躍するので、LSO
ブラス・セクションの本領が遺憾なく発揮されているのにも注目です。ニールセンが世を去る6
年前の1925 年に完成した交響曲第6 番は、副題から「簡潔な性格」の内容を示唆しながら決してそうではないところが、なるほど交響曲第4
番、第5 番を経て生み出されたという作品の素性を思い起こさせるもの。第3
楽章での錯綜するフーガに、手の込んだ変奏曲のフィナーレのほか、弦楽器が緘黙する第2
楽章など限定的なオーケストラの楽器用法も特徴的で、第5
番に引き続き打楽器群の存在感がまた強烈。そのうえ、シニカルでユーモラスな味わいも滲ませて、ほかの誰とも異なるニールセンのユニークな境地と、いみじくもこの作品が20
世紀のシンフォニーであることを表してもいるようです。「時に聴き手を戸惑わせるニールセンの音楽でデイヴィスが成功を収める鍵は、彼がニールセンの音楽にあまり自身を押しつけようとしないということです。
むしろ、細部をできるだけ明白にして、全体的な形を自然に出て来させることにあくまで重点が置かれているのです。」−英ガーディアン紙2011
年5 月29 日[ 交響曲第6 番]
年輪を重ねてなおますます意気盛んなデイヴィスのもと、巨匠に心からの敬意と信頼を寄せるLSO
の演奏は、真摯なアプローチと充実しきった音響がひときわ印象的なもので、同じ顔ぶれによるシベリウスの例がそうであったように、高品位な録音も併せて数あるニールセンの交響曲全集のなかでも、あらたな強力盤の登場を予感させるに十分な内容となっています。 (Ki) |
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LSO-0716(1SACD)
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ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(ハース版) |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2011年6月14&16日ロンドン、バービカンセンター(ライヴ)
プロデューサー:ジェイムズ・マリンソン
バランス・エンジニア:ジョナサン・ストークス
音声編集:ジョナサン・ストークス&ニール・ハッチンソン |
【充実の成果をもたらしてきたロンドン響との顔合わせ】
このたびのハイティンクによる「ロマンティック」は、2010/11年シーズン期間中の2011年6月に行われたLSO定期公演の模様を収めたものですが、ここ数年毎シーズン、ハイティンクはLSOに客演して、得意のレパートリーを手掛けています。タイムズ紙、インディペンデント紙ほか各紙レビューが伝えるように、過去の客演の成果については、ブラームスの交響曲全曲(2003、04年)、ベートーヴェンの交響曲全曲(2005、06年)、シュトラウスのアルプス交響曲(2008年)といったLSOLiveのリリースを通して確かめることができます。
【エキスパート、ハイティンクのブルックナー録音】
ハイティンクといえば、マーラーと並んでやはりキャリアの早い段階から実績を積んできたのがブルックナーのシンフォニー。豊富な録音点数もそのことを端的に裏付けていて、1963年から1972年にかけてRCOとセッション録音で完成させた交響曲全集(第0番を含めた全10曲)をはじめ、ウィーン・フィルとの第3・4・5・8番、RCOとの第7・8・9番というセッションでの再録音シリーズを経て、ライヴ録音のリリースもここ10年ほどのリリースに絞ってみてもかなりのものがあります。 (Ki) |
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LSO-0719(2SACD)
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ブリテン:戦争レクィエム |
サビーナ・ツビラク(S)
イアン・ボストリッジ(T)
サイモン・キーンリーサイド(Br)
エルサム・カレッジ少年cho
ロンドン交響cho
ジャナンドレア・ノセダ(指)LSO、
録音:2011年10月9&11日ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
首席指揮者ゲルギエフの弟子、ジャナンドレア・ノセダがLSOLiveに初登場。ブリテンの戦争レクィエムは、2011年10月にノセダがLSOを指揮して本拠バービカンでおこなったコンサートの模様をライヴ収録したものです。
【LSOを率いた作曲者自演による世界初録音】
1962年5月の「戦争レクィエム」世界初演を自ら指揮したブリテンは、翌1963年1月にはLSOを指揮して世界初のセッション録音を果たしています。世界初演時のキャストふたり、ピアーズとフィッシャー=ディースカウに、当初出演が予定されていたヴィシネフスカヤをソリストに擁したこの録音は、随所に作曲者の強い表現意欲が漲り亘ることからもその説得力は絶大で、1963年度第1回レコード・アカデミー大賞にも輝いているなど、初演直後いきなりとんでもない高みにそびえ立つ内容として、圧倒的存在感を示してきました。さらに、LSOはまた「戦争レクィエム」を1991年にヒコックスの指揮でセッション録音しており、こちらはソプラノに世界初演時のヘザー・ハーパーを迎えたことも功を奏してか、英国GramophoneAwardを受賞しています。
【ノセダによる注目演奏】
ノセダがLSOを率いて、ブリテンの世界初演より半世紀後の2012年に世に問う「戦争レクィエム」。すでにLSOとは、ゲルギエフの首席指揮者就任を機に頻繁に客演を重ねている間柄であることもそうですが、ここでノセダはLSOによる過去2度のレコーディングにも参加したロンドン・シンフォニー・コーラスを起用。ソリストには、2011年6月にもビシュコフ指揮で同曲を歌ったばかりのスロベニア期待のツビラク、そして、もっともブリテンがこだわり抜いたオーエンの戦争詩のパートを受け持つテノールとバリトンに、英国が誇る当代きってのボストリッジとキーンリーサイドを配したきわめて強力な布陣で臨んでいることにも注目されます。また、ノセダは、2011年5月のスペイン3か所でおこなったトリノ王立劇場管とのヴェルディの「レクィエム」、同じくパリ公演での「聖歌四篇」、さらに9月のトリノとリミニでトリノ王立歌劇場管、RAI国立響の合同オケを指揮したマーラーの「第8交響曲」と、立て続けに声楽付きの大作を手掛けて成功を収めていることから、この良い流れを受けての内容ということで期待もおおきくふくらみます。 (Ki) |
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LSO-0720(1SACD)
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ティオムキンの映画音楽の世界
ディミトリ・ティオムキン:「シラノ・ド・ベルジュラック」(1951)−序曲
組曲「アラモ」(1960)
「老人と海」(1958)−メイン・テーマ、クバーナ&フィナーレ
「4枚のポスター」(1952)−序曲
組曲「ジャイアンツ」(1956)
「ローマ帝国の滅亡」(1964)−愛の翳り[インストゥルメンタル・テーマ]
「真昼の決闘」(1952)より主題歌「Do Not Forsake
Me, Oh My Darlin'」*
「ローハイド」(1959)−テーマ *
組曲「紅の翼」(1954)
ヒッチコック組曲:「ダイヤルMを廻せ!」(1954)&「見知らぬ乗客」(1951)
「野性の息吹」(1958)−主題歌 #
「サンダウナーズ」(1960)−テーマ
「サーカスの世界」(1964)−ジョン・“デューク”・ウェインのマーチ
・「ピラミッド」(1955)−主題歌&ファラオの行進
#
「友情ある説得」(1956)−フェア
「友情ある説得」−主題歌「Thee I Love」 *# |
ホイットニー・クレア・カウフマン(Vo)#
アンドルー・プレイフット(Vo)*
ロンドン・ヴォイセズ
リチャード・カウフマン(指)LSO
録音:2011年10月27日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)
プロデューサー:ジェイムズ・マリンソン /
エンジニア:ジョナサン・ストークス&ニール・ハッチンソン |
LSO Liveの最新アルバムは、ディミトリ・ティオムキンの映画音楽集。LSO
Liveがあらたに随時お届けする、史上最も偉大な映画音楽の作曲家たちのシリーズ第1弾
となります。
【R=コルサコフの弟子グラズノフに学んだティオムキン】
ロシアのサンクトペテルベルクに生まれたディミトリ・ティオムキン(1894−1979)は、もっとも高い評価を受けるハリウッド映画の作曲家のひとり。ペテルブルク音楽院で、
R =コルサコフの弟子ブルメンフェリトとグラズノフに学び、ベルリンでエゴン・ペトリとブゾーニに師事しています。
ロシア革命を経て、第1次大戦後に、ティオムキンはベルリンでプロのコンサート・ピアニストとしてデビュー。1928年にはパリ・オペラ座でガーシュウィンのピアノ協
奏曲ヘ調のヨーロッパ初演を行ってもいます。
【西部劇からサスペンスまで、多彩な作風で人気を博したティオムキン】
1925年には初の訪米を果たしますが、今日、映画音楽に偉大な足跡を残すティオムキンに最大の転機が訪れるのは、1929年に妻とともにハリウッドに移ってから。
西部劇の音楽のスタイルを確立した「真昼の決闘」「アラモ」や、「紅の翼」「ローマ帝国の滅亡」のようなスペクタクル巨編、そして「サスペンスの神様」ヒッチコックの「ダ
イヤルMを廻せ!」「見知らぬ乗客」と、ジャンルを問わず、ティオムキンは、140本ともいわれる数多くの映画音楽を手掛けました。
さらに、クリント・イーストウッド出演で知られるテレビ・ドラマ・シリーズ「ローハイド」の主題歌もティオムキンの仕事で、天賦のソングライターでもあったティオムキンはまた、
「野性の息吹」や、アカデミー賞で主題歌賞を獲得した「真昼の決闘」といったスタンダード・ナンバーを書いています。
【ノミネート22回!4度のオスカー受賞に輝いたティオムキン】
多才な職人作曲家で、注文に合わせてほとんどどんなストーリーにも記憶に残るスコアを書くことが出来たティオムキンは、アカデミー賞にノミネートされること、信じ難
いことに22回、4度のオスカー(「真昼の決闘」作曲賞&主題歌賞、「紅の翼」作曲賞、「老人と海」作曲賞)に輝いています。
1954年に「紅の翼」アカデミー作曲賞受賞式でティオムキンは、ブラームス、R.シュトラウス、ワーグナー、ベートーヴェン、R=コルサコフの名を挙げて感謝の念を
述べるという、ウィットの利いたスピーチで会場を沸かせたといいますが、存外、これは本音と真実を滲ませたものといえそうで、クラシック音楽の巨匠たちの流れを汲ん
でいるという強い自負の表れなのかもしれません。
【“フルオケによるオリジナル・サウンドトラックのパイオニア”
LSO】
最近では「ハリー・ポッター」シリーズをはじめ、ジョン・ウィリアムズ作曲の「スター・ウォーズ」シリーズ、「スーパーマン」や「レイダース−失われたアーク」といった大ヒッ
ト超大作のオリジナル・サウンドトラックを担当したことで有名なLSO。
LSOと映画産業との関わりは、1936年のアーサー・ブリス作曲「来るべき世界」の時代まで遡ることができ、オーケストラというものが映画のサウンドトラックをレコー
ディングした走りでした。
【ヴォーン・ウィリアムズ、ウォルトンにローザ。LSOと組んだ有名作曲家たち】
20世紀は「映像の世紀」ともいわれ、映画、テレビなど商業音楽の需要が飛躍的に拡大し、作曲家たちの多くが新たな領域に進出した時代でもあります。
LSOはやはり自国の作曲家とのコラボが盛んで、1940年代に入ると、ウィリアム・ウォルトンの「スピットファイア」「バーバラ少佐」、ヴォーン・ウィリアムズの「49度
線」、1940年代半ばには、フルートの名手でLSOの首席奏者だったこともあるウィリアム・オルウィンの「邪魔者は殺せ」「ヘンリー5世」といったサントラをレコーディ
ングしています。 ほかにも1940年代にジョルジュ・オーリック、1960年代にバーナード・ハーマンの映画音楽も録音していたLSOは、ティオムキン同様にハリウッドで活躍したミクロス・
ローザ(ミクローシュ・ロージャとも)の映画音楽にも関わり、ローザが英国滞在時代の1939年に「四枚の羽根」を、ハリウッド時代の1953年に「円卓の騎士」を
録音していました。
【映画音楽の第一人者リチャード・カウフマン】
ロサンジェルス生まれで、MGM映画の音楽部門に在籍していたキャリアを持つ、グラミー賞受賞指揮者のリチャード・カウフマンは、幾多のコンサート・ホールでの映
画音楽、クラシック音楽の演奏活動だけでなく、映画音楽ならびにテレビ番組の音楽の指揮と監督に、その音楽人生の大半を捧げてきた第一人者。ダラス響の桂冠ポッ
プス指揮者であるカウフマンは、やはり首席ポップス指揮者を務めるパシフィック・シンフォニーのほか、現在、「Friday
Night at the Movies」というシリーズでシカゴ
交響楽団に定期的に出演しています。 カウフマンはまた、ジョン・デンバー、アンディ・ウィリアムズ、ダイアナ・クラール、クリス・ボッティ、ビーチ・ボーイズ、パティ・オースティン、アート・ガーファンク
ルといったアーティストのために指揮をしてきたことでも有名。
先だってもLSOとは、“飛行” にまつわる古今の映画音楽を集めた最新アルバム「紅の翼」を発表したばかりのカウフマンが、いままた「サントラの心得あるオーケストラ」
LSOを指揮して、ティオムキンの作品を取り上げたアルバムは、映画ファンのみならず、クラシック音楽のファンにもあらためて、ティオムキンの魅力を気付かせてくれるも
のといえるでしょう。 (Ki) |
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LSO-0722(1SACD)
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ニールセン:交響曲第2番「四つの気質」
交響曲第3番「ひろがりの交響曲(シンフォニア・エスパンシヴォ)」* |
ルーシー・ホール(S)*
マーカス・ファーンズワース(Br)*
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2011年12月4 & 6日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)
2011年12月11 & 13日ロンドン、バービカンホール(ライヴ)* |
巨匠コリン・デイヴィス指揮LSO演奏によるニールセン・シリーズもいよいよ大詰め。交響曲第2番と第3番は、前作第1番より2ヶ月後の2011
年12月に、いずれも本拠バービカンホールで集中的に行われたコンサートの模様をライヴ収録したものです。
【第2番「四つの気質」と第3番「ひろがりの交響曲」】
「四つの気質」というタイトルをもつ第2交響曲は、ニールセンが田舎を訪れた際にパブで偶然目にした、人間の気質をテーマとした水彩戯画に霊感を得
て生み出されたもので、4つの楽章各々の発想記号に、怒りっぽい「胆汁質」、知的で冷静な「粘液質」、沈んでメランコリックな「憂鬱質」、陽気で快活
な「多血質」という性格を暗示する形容詞が与えられ、じっさいの音楽もこれに沿う形で展開するところがユニークな作品。
いっぽう、第1楽章の発想記号(アレグロ・エスパンシヴォ)に由来する「ひろがりの交響曲」というタイトルで呼ばれる第3交響曲は、第2楽章(ア
ンダンテ・パストラーレ)の曲想から「ニールセンの田園交響曲」ともいわれ、楽章中盤以降に舞台裏からバリトンとソプラノの独唱が相次いでヴォカリー
ズで現れるところに最大の特徴があり、北欧風の牧歌的な味わいで発表当時から人気の高かった曲でもあります。
【“デンマーク王室お墨付き” デイヴィス&LSOによるニールセン・プロジェクト】
2012年5月25日、デイヴィスはデンマーク王室より、2011年にLSOと取り組んだニールセンの交響曲録音の功績を認められ、デンマーク大使を通
じて由緒あるダネブロー・コマンダー勲章(Commander
of the Order of the Dannebrog)を叙勲されました。
その評価の正当性はこれまでのシリーズのすぐれた演奏内容からも明らかですが、2012年9月に85歳を迎えたデイヴィスの音楽はここでも、はたして
本当にこれがニールセンの交響曲に初めて本格的に挑んだ指揮者のものとは到底信じられないほどの高みに聳えて圧倒的な佇まい。前2作同様に、心酔
する巨匠と音楽を奏でる歓びを一丸となって表現するLSOの演奏は迫真そのもので、シリーズを締め括るにふさわしいみごとな内容となっています。 (Ki) |
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LSO-0726(2SACD)
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ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」 |
サイモン・オニール(テノール:マックス)
ラルス・ヴォルト(バス‐バリトン:カスパール)
クリスティーン・ブルーワー(ソプラノ:アガーテ)
サリー・マシューズ(ソプラノ:エンヒェン)
シュテファン・ローゲス(バス‐バリトン:オットカール/ザミエル)
マーティン・スネル(バス:クーノー)
マーカス・ファーンズワース(バリトン:キリアン)
ギドン・サクス(バス:隠 者)
ルーシー・ホール(ソプラノ:花嫁に付き添う4人の乙女)
マルコム・シンクレア(語り)
ロンドン・シンフォニー・コーラス
サー・コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2012年4月19日 & 21日/ロンドン、バービカン・ホール(演奏会形式によるライヴ上演) |
2012年秋に85歳を迎えたコリン・デイヴィスを記念するリリースが続くLSOLive。最新アルバムは、デイヴィス指揮によるヴェーバーのオペラ「魔弾の射手」全曲。前作ベルリオーズの「レクィエム」より2か月ほど前の、2012年の4月19日と21日に、本拠バービカン・ホールで行われた演奏会形式による上演の模様をライヴ収録したものです。 デイヴィス指揮の「魔弾の射手」といえば、1990年1月にドレスデンのルカ教会でシュターツカペレ・ドレスデンを指揮して全曲のセッション録音をおこなっていたので、デイヴィスにとっては22年ぶり2種目の録音ということになります。 マクミランへの委嘱作やニールセンの交響曲のように、デイヴィスはあらたなレパートリーに対して情熱を傾けつつ、そのいっぽうでこれまでの長きに亘るキャリアを通じて解釈を深めてきたベルリオーズやシベリウスといった納得のプログラムの総仕上げをおこなってもきました。 そうしたなかで、2006年にデイヴィスがLSOのプレジデントに就任したあたりから現在まで、いずれのケースにおいても桁違いの充実ぶりを示してきたのは、この間に構築したディスコグラフィを通じて確かめられるところで、このたびの演奏内容についても、やはりその出来ばえにはすばらしいものがあります。 それにしても、これから繰り広げられる場面のテーマをたくみに散りばめた「序曲」といい、楽譜に書き留められたうちでもっとも邪悪で残忍な描写として名高い「狼谷の場面」における緊迫感とボルテージといい、デイヴィスは年輪を重ねてかえってなおもエネルギッシュでみずみずしく、想像をはるかに上回る圧倒的な音楽で満たしています。 意外なことに、これが初の「魔弾の射手」全曲録音となるLSOにしても、2000年以降の毎シーズン必ずコンサート形式でのオペラ上演に取り組んで着実に実績を重ねており、その結果生み出されたベルリオーズやベートーヴェンのオペラ録音が物語るように、デイヴィスとの呼吸も申し分ありません。 さらに、主要キャストも、マックスのサイモン・オニール(「オテロ」)、アガーテのクリスティーン・ブルーワー(ヴェルディの「レクィエム」)、エンヒェンのサリー・マシューズ(「天地創造」)という具合に、過去のLSOLiveのリリースで起用されたデイヴィスのお気に入りで固められ、巨匠の信頼にみごとに応えています。 ドイツ・ロマン派オペラの幕開けを告げ、来たるワーグナーへの道筋を準備した画期的な傑作の魅力を余すところなく引き出したデイヴィス率いるLSOによる「魔弾の射手」。ここにまたひとつデイヴィスを代表するアルバムが加わったといえるでしょう。なお、このたびの上演に際して、オリジナルのドイツ語歌唱に並行して、アマンダ・ホールデンによる新英語訳のナレーションを、英国の名優マルコム・シンクレアが語るというスタイルが採用され、物語のスムーズな進行と理解に役立っていました。 (Ki) |
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LSO-0728(1SACD)
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バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV
1004、ルターのコラール集
ああ 主よ、あなたの愛しい天使に命じて(ヨハネ受難曲BWV
245)
パルティータ第2番:アルマンド
パルティータ第2番:クラント
キリストは死の縄目につながれたり(BWV 4)
パルティータ第2番:サラバンド
死に打ち勝てる者は絶えてなかりき(BWV 4)
パルティータ第2番:ジグ
いつの日かわれ去り逝くとき(マタイ受難曲BWV
244)
シャコンヌ[ヘルガ・テーネのレアリゼーションによる、ヴァイオリンと4声のコーラスのための]
フォーレ:レクィエム |
ゴルダン・ニコリッチ((Vn)
グレース・デイヴィッドソン(S)
ウィリアム・ゴーント(Br)
テネブレCho
ナイジェル・ショート(指)
ロンドン交響楽団室内アンサンブル
録音:2012年 5月ロンドン、セント・ジャイルズ・クリップルゲイト教会(ライヴ
) |
世界的に有名なザ・キングズ・シンガーズの元メンバーで、英国合唱界の大立者ナイジェル・ショート率いる若手の精鋭合唱アンサンブル、テネブレ。「キリストの幼時」「メサイア」の好演も光るかれらが、LSO
Liveに本格的に登場。ロンドン交響楽団室内アンサンブルとともに、J.
S. バッハのコラールほか、メインにフォーレの「レクィエム」を取り上げた注目の内容です。
【好評を博した「シティ・オブ・ロンドン・フェスティバル」のプログラム再演】
2011年6月、テネブレとLSO選抜メンバーによる室内アンサンブルは「シティ・オブ・ロンドン・フェスティバル」に出演、セント・ポール大聖堂でのコンサートは大成功を収めました。これはその翌年2012年5月に、すぐれた音響で知られるセント・ジャイルズ・クリップルゲイト教会でおこなわれた同一プログラム再演の模様をライヴ収録したものです。
【J.S.バッハの「コラール」と「シャコンヌ」】
プログラムはたいへんユニークなもので、前半のJ.
S. バッハでは、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番各曲のあいだに、教会カンタータ第4番「キリストは死の縄目につながれたり」ほか、バッハのコラールを挿み込む構成が採られています。さらに、最大のポイントは終曲「シャコンヌ」で、バッハの旅行中に亡くなった彼の最初の妻、マリアへの
“レクィエム” であるという説に依拠して、独奏ヴァイオリンに乗せて当時の教会用コラールからの歌詞が綾なすように歌われるさまが、神秘的な美しさを湛えているばかりでなく、フィナーレとしてもじつに自然で効果的。ちなみに、同じコンセプトの内容には、ポッペンのヴァイオリンとヒリアード・アンサンブルによるアルバムや、モレーノのリュートとカークビーの歌唱によるレコーディングがありましたが、またひとつここに魅力的な演奏が加わりました。なお、ここでみごとなヴァイオリン独奏を披露するのは、LSOコンサートマスターのゴルダン・ニコリッチ。師カントロフゆずりの折り目正しいアプローチがまさしくこうした内容にぴったりです。
【テネブレ待望のレパートリー、フォーレの「レクィエム」】
テネブレは、しばしばロウソクの灯りのみが燈された空間で歌い、アレグリやヴィクトリア、タヴナーの宗教作品や、プーランクの声楽曲などにおいて、とびきり透明度の高い歌唱を聴かせてきたのはすでによく知られるところで、繊細な表現と美しいハーモニーの安定感は折り紙つき。フォーレのレクィエムは声楽曲の最重要レパートリーのひとつにもかかわらず、テネブレによるレコーディングはこれまでなかったので、その演奏内容にはひときわおおきな期待がかかります。また、意外なことに、LSOにとってもフォーレのレクィエムは、1982年にチェリビダッケが指揮したロイヤル・フェスティバル・ホールでのライヴ演奏(BBC収録・正規未発売)くらいしかなかったので、その意味でも貴重な内容といえるでしょう。ここでは時期の異なる3つの版うち、ジョン・ラターによる第2稿の校訂版(1984年)に拠る演奏となっています。 (Ki) |
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LSO-0729(2SACD)
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ベルリオーズ:レクィエム Op.5 |
バリー・バンクス(T)
ロンドン・シンフォニー・コーラス、
ロンドン・フィルハーモニーCho
コリン・デイヴィス(指)LSO
録音:2012年6月25 & 26日ロンドン、セント・ポール大聖堂(ライヴ) |
【デイヴィスによるベルリオーズの「レクィエム」】
なかでも「レクィエム」はデイヴィスにとって真に特別なもののようで、まだクラリネット奏者だった若い頃に演奏して指揮者を志
す啓示を受けた運命の曲であると述懐しているほどです。
デイヴィスはまた「レクィエム」について、1969年にLSOを指揮してウェストミンスター大聖堂でセッション録音、1989年にバイエルン放送響を指揮した
コンサートのライヴ映像作品を制作、1994年に聖十字架教会でシュターツカペレ・ドレスデンを指揮したコンサートの模様をライヴ収録という具合に、折
に触れてすでに3度ものレコーディングを重ねており、とくに、シュターツカペレ・ドレスデンを指揮したドレスデン爆撃戦没者追悼演奏会のライヴ録音盤が、
言葉どおりの意味で迫真の演奏内容を聴かせたことで、桁違いの名演とまで騒がれたのはまだ記憶にあたらしいところです。
【2012年6月セント・ポール大聖堂における最新ライヴ】
デイヴィスが、自身による第1回目の録音からじつに43年ぶりに同じLSOを指揮してベルリオーズの「レクィエム」を演奏したアルバムは、50回目の節目
を迎えたシティ・オブ・ロンドン・フェスティバル2012のハイライトとして、巨匠が85歳の誕生日を迎える3か月前の2012年6月25、26日の2日間
に亘りセント・ポール大聖堂でおこなわれたコンサートの模様をライヴ収録したものです。
ここ最近のデイヴィスとの顔合わせでみせる手兵LSOの白熱ぶりはここでも健在なうえに、総勢150名にも及ぶ合唱には、やはりデイヴィスの第1回録音
にも起用されたロンドン・シンフォニー・コーラスとともに、ロンドン・フィルハーモニー合唱団が合同参加して、このモニュメンタルな大作の上演をおおい
に盛り立てています。 18年前のシュターツカペレ・ドレスデンとのライヴ録音盤を「まさに忘れることの出来ない感動的な体験」だったと語るデイヴィスですが、過去に安住する
ことなく、あくまでひたむきな巨匠の境地と尽きることのない情熱には頭が下がる思いです。
デイヴィスが初めてLSOとベルリオーズ作品を録音して以来50年。LSO
Liveでデイヴィスが取り組んできたベルリオーズ・シリーズを締め括る「レクィエム」
は、エキスパートとしてのポジションをあらためて裏付けるものといえるでしょう。 (Ki) |
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LSO-0730
(10SACD)
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マーラー:交響曲全集
(1)交響曲第1番ニ長調「巨人」
(3)交響曲第2番ハ短調「復活」
(4)交響曲第3番ニ短調〜第1楽章
(5)交響曲第3番ニ短調〜第2−第6楽章
(6)交響曲第4番ト長調
(7)交響曲第5番嬰ハ短調
(8)交響曲第6番イ短調「悲劇的」
(9)交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
(10)交響曲第8番「千人の交響曲」
(11)交響曲第9番ニ長調 |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
(1)録音:2008年1月13日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.0
(2)録音:2008年6月5日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.0
(3)エレーナ・モシュク(ソプラノ) ズラータ・ブルィチェワ(メゾ・ソプラノ) ロンドン交響Cho
録音:2008年4月20、21日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.0
(4)(5)アンナ・ラーション(Ms)、ティフィン少年Cho、ロンドン交響Cho
録音:2007年9月24日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.0
(6)ラウラ・クレイコム(S)
録音:2008年1月12日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.0
(7)録音:2010年9月26日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.1
(8)録音:2007年11月22日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.0
(9)録音:2008年3月7日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.0
(10)ヴィクトリヤ・ヤーストレボワ(S T 罪深き女)、アイリッシュ・タイナン(S
U 贖罪の女)、リュドミラ・ドゥディーノワ(S
V 栄光の聖母)、リリ・パーシキヴィ(Ms T
サマリアの女)、ズラータ・ブルィチェワ(Ms
U エジプトのマリア)、セルゲイ・セミシクール(T
マリア崇拝の博士)、アレクセイ・マルコフ(Br
法悦の神父)、エフゲニー・ニキティン(Bs 瞑想の神父)、エルサム・カレッジCho
、ワシントン・コーラル・アーツ・ソサエティ、ロンドン交響Cho、録音:2008年7月9
& 10日セント・ポール大聖堂(ライヴ) 5.1
(11)録音:2011年3月2 & 3日バービカンホール(ライヴ) DSD
5.1 |
2007年収録の第6番でスタートし、2011年の第9番で完結したゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団によるマーラーの交響曲全集が、SACD
Hybrid 盤10枚組のBOXセットとなって登場。分売リリース11枚分の収録内容はそのままに、収録順を組み換えることで枚数を抑えて、たいへんお買い得な
価格での御提供が可能となりました。 このシリーズは、すべてコンサートでの演奏をライヴ録音しているところにその特徴があり、実演における白熱の模様がストレートに肌で感じられるのも魅
力のひとつといえ、第6番や第7番などはその最たる例で、極端なテンポ設定や荒削りでユニークなアプローチも話題騒然となりました。
また、シリーズの大詰めの時期にあたる第5番と第9番では、同一プログラムを数多くこなしたのちに、周到な準備を経て収録に臨んだこともあり、完
成度の高さでもゲルギエフがロンドン交響楽団のシェフに就任して以来、屈指の成果を示しています。
マーラー・アニヴァーサリーに向けて台風の目となったゲルギエフ率いるロンドン交響楽団によるマーラー・シリーズ。ぜひとも、この機会にお確かめくだ
さい。 (Ki) |
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LSO-0731(1SACD)
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シマノフスキ:交響曲第1番ヘ短調 Op.15
交響曲第2番変ロ長調 Op.19 |
ワレリー・ゲルギエフ (指)LSO
録音:2012年9、10月 バービカン・ホール(ライヴ) |
ゲルギエフとロンドン交響楽団は、2012年シーズンでシマノフスキとブラームスの交響曲を対比上演するという試みを行い
ました。かたやポーランド近代、かたやドイツ・ロマン派と、交響曲を4篇残していること以外共通する点のないふたりの作曲家ですが、ゲルギエフにとっ
て初レパートリーだけに興味津々。今回のアルバムはシマノフスキ作品のみで、純オーケストラ用の2篇が収められています。
カロル・シマノフスキ(1882-1937)は近代ポーランドを代表する作曲家ですが、生まれ育ちはウクライナ。ロシア・ピアニズムの源流ゲンリヒ・ネイ
ガウスが従兄弟、ホロヴィッツの師だったピアニストで作曲家のフェリクス・ブルーメンフェルトが叔父という、ロシア音楽史から見ても特別な家柄の出で
す。それゆえか、彼の音楽はポーランドの演奏家のみならず、ロシアの大物たちに愛奏される歴史があり、リヒテルやオイストラフも素晴らしい録音を残
しています。
当アルバムの注目は若書きの交響曲第1番。1906-7年の作で、第1楽章と第3楽章のみ1909年3月に初演されたものの、その後完成されること
なく最近まで聴くことさえ出来ませんでした。当時シマノフスキはレーガーの影響を強く受け、この作品も錯綜する対位法と複雑な和声に彩られ、自身第
1楽章を「対位法的・和声法的・管弦楽的怪物」と称しています。後年のシマノフスキの作風とは異なる濃厚さですが、ナイーヴな叙情性にもあふれ、
捨て難い魅力にあふれています。これまで2種のCDが存在していましたが、この演奏は次元が違います。ゲルギエフはもつれるような対位法の綾をすっ
きり解きほぐし、バランスに難のあるオーケストレーションも効果的に響かせています。LSOまた驚きの巧さで応じ、この不遇な作品を立派な芸術作品と
して蘇らせました。
交響曲第2番は、1909年から10年にかけて作曲されたシマノフスキの代表作のひとつ。シマノフスキならではの透明でひんやりした感性、貴族的で
高踏的な雰囲気に終始する魅力作で、交響曲第1番とは対照的な作風を見せます。美しいヴァイオリン独奏で始まるソナタ形式の第1楽章、主題と変奏
曲の第2楽章、フーガの第3楽章から成り、いずれも高度な技法を駆使しながらも、シマノフスキならではのナルシズムで冷静かつエレガント。こうした
感覚はまさにゲルギエフにピッタリ。悪魔的に複雑さの第3楽章フーガも、驚くほど整然と展開され、しかも盛りあがりもバッチリ。明らかにこれまでのど
の録音も凌ぐ、空前の名演で、これを聴かずしてシマノフスキを語るべからずの一枚です。 (Ki) |
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LSO-0733(2SACD)
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ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68
交響曲第2番Op.73
悲劇的序曲Op.81
ハイドンの主題による変奏曲 |
ワレリー・ゲルギエフ (指)LSO
録音:2012年9月、10月、12月 バービカン・ホール(ライヴ) |
ゲルギエフとロンドン交響楽団は、昨2012年シーズンでシマノフスキとブラームスの交響曲を対比上演するという試みを行い
ました。かたやポーランド近代、かたや純ドイツ・ロマン派と、交響曲を4篇残していること以外共通する点のないふたりの作曲家ですが、ゲルギエフにとっ
て初レパートリーだけに興味津々。今回は待望のブラームス。
ブラームスの交響曲はゲルギエフの音楽性と資質から考えると、面白そうと思われながら、録音は協奏曲やドイツ・レクイエムなどしかありませんでした。
満を持しての披露となります。
交響曲第1番にゲルギエフの個性がもっとも強く表れています。音色は暗く、強烈なアクセントはロシア音楽のようで新鮮。重低音をきかせたフィナー
レの、ことにコーダはロシア正教の合唱をオーケストラに移し替えたような音響に驚かされます。
交響曲第2番は本来田園的で平穏な作品のはずながら、不思議な不吉さと不穏な雰囲気に翳っています。ゲルギエフは伝統や因習から離れ、劇的とい
えるような作品像を描いています。終楽章の素晴らしい加速ぶりはゲルギエフならでは。最後の輝かしい肯定へ向かって進む熱気は感動的です。
「ハイドンの主題による変奏曲」は各変奏での性格分けの巧さが光ります。メンデルスゾーンのスケルツォのように軽快な第5変奏、明朗な管楽による
第6変奏、上品でうきうきしただ第7変奏、不気味に音を抑えた第8変奏が、威厳に満ちた「聖アントニウスのコラール」を感動的に導きます。 (Ki) |
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LSO-0737(1SACD)
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ブラームス:交響曲第3番ヘ長調op. 90
交響曲第4番ホ短調op. 98* |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2012年12月11日&18日
2012年12月12日&19日* 共にバービカンホール(ライヴ) |
ゲルギエフとロンドン交響楽団が進めてきたブラームス・プロジェクトの完結篇。
ゲルギエフは、2012/13年のシーズンにロンドン響を指揮して、シマノフスキとブラームスの交響曲および声楽曲そのほかを対比上演するという試みを行
い、おおきな話題を集めました。このたび登場するブラームスのふたつの交響曲はいずれも2012年12月に集中的にライヴ収録されたもので、交響曲
第4番が、前半のシマノフスキの交響曲第4番とヴァイオリン協奏曲第2番に続いて演奏されたプログラム。交響曲第3番が演奏されたコンサートでは、
後半にハイドン変奏曲と、シマノフスキの交響曲第3番が演奏されています。
ゲルギエフのブラームスといえば、ロンドン響を指揮した前作の「ドイツ・レクィエム」もそうでしたが、熱っぽい部分にも事欠かないものの、どっしり
と腰を落とした構えで、ある意味、正統的な、堂々たる演奏を展開していました。そこでは、ロンドン響から重厚なひびきを引き出して、充実ぶりと相性
の良いところをみせていたので、ブラームス円熟の様式美がふんだんに盛り込まれたこのたびの2曲にもおおきな期待をもって迎えられるところです。 (Ki) |
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LSO-0739(1SACD)
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シマノフスキ:交響曲第3番Op.27「夜の歌」
協奏交響曲(交響曲第4番Op.60)
スターバト・マーテルOp.53(ポーランド語歌唱) |
トビー・スペンス(T)、
デニス・マツーエフ(P)、
サリー・マシューズ(S)、
エカテリーナ・グバノワ(Ms)、
コスタス・スモリギナス(Br)、
ワレリー・ゲルギエフ (指)
LSO&Cho
サイモン・ハルジー(合唱指揮)
録音:2012年12月、2013年3月 バービカン・ホール(ライヴ) |
ゲルギエフとロンドン交響楽団は、昨2012年シーズンでシマノフスキとブラームスの交響曲を対比上演するという試みを行い
ました。かたやポーランド近代、かたや純ドイツ・ロマン派と、交響曲を4篇残していること以外共通する点のないふたりの作曲家ですが、ゲルギエフにとっ
て初レパートリーだけに興味津々。今回のアルバムはシマノフスキ作品のみ、ソリストとオーケストラのための3篇が収められています。
カロル・シマノフスキ(1882-1937)は近代ポーランドを代表する作曲家ですが、生まれ育ちはウクライナ。ロシア・ピアニズムの源流ゲンリヒ・ネイ
ガウスが従兄弟、ホロヴィッツの師だったピアニストで作曲家のフェリクス・ブルーメンフェルトが叔父という、ロシア音楽史から見ても特別な家柄の出で
す。それゆえか、彼の音楽はポーランドの演奏家のみならず、ロシアの大物たちに愛奏される歴史があり、リヒテルやオイストラフも素晴らしい録音を残
しています。
交響曲第3番「夜の歌」は、13世紀ペルシャの詩人ジャラール・ウッディーン・ルーミーの詩をドイツ語からの重訳でポーランド語訳された歌詞によ
るテノールと合唱付きのオラトリオ風作品で、神秘的で扇情的な歌詞とスクリャービン風の官能性に満ちた音楽。この曲の初演は、1916年11月にアレ
クサンドル・ジロティ(ラフマニノフの従兄のピアニストで指揮者)の指揮で予定されていましたが延期となり、1921年11月にロンドンにてアルバート・
コーツ指揮ロンドン交響楽団により行われました。コーツはロシア革命までマリインスキー劇場の首席指揮者を務めたゲルギエフの大先輩でもあり、同じ
LSOを指揮しての演奏など、ゲルギエフならびにロシアとの縁の深さに興味津々。極めて大編成で、たくさんの声部による精緻を極めた織物ですが、まさ
にゲルギエフの真骨頂、驚くべきバランス感覚と統率力で完璧に再現しています。独唱のトビー・スペンスはイギリスのテノール。明るくさわやかな美声が
かえってこの作品の変態性を際立たせています。
交響曲第4番は、「協奏交響曲」と呼ばれるピアノとオーケストラのための作品。シマノフスキの晩年にあたる1932年に作曲され、親友の大ピアニス
ト、アルトゥール・ルービンシュタインに捧げられました。通常のピアノ協奏曲よりもオーケストラの比重が高く、まさに立派な交響曲となっています。マツー
エフの師ナセトキンはゲンリヒ・ネイガウスの弟子であり、まさに直系の独奏者。あいかわらずの物凄いテクニックで、ポーランド民俗舞曲に基づくフィナー
レなど、プロコフィエフの音楽のようで鮮烈です。ここでもゲルギエフのバランス感覚とLSOの巧さが光ります。
1926年作の「スターバト・マーテル」は、宗教音楽ながらポーランドの民俗音楽の要素濃厚な、シマノフスキ後期の傾向が明瞭な作品。シマノフス
キの古代趣味の表れのひとつである16世紀ルネサンス音楽への傾倒が見てとれます。独唱も合唱もポーランド語により、非常に感動的です。
ゲルギエフはシマノフスキの音楽について、「広く聴かれ、認められるのが当然なだけでなく、その音楽で20世紀音楽の発展をより良く理解する絶好の
機会だ」と絶賛しています。シマノフスキの交響曲第3番と4番はこれだけ持っていれば充分な決定盤の登場と申せましょう。 |
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LSO-0744(1SACD)
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ターネイジ:残骸から
スペランツァ |
ホーカン・ハーデンベルガー(Tp)
ダニエル・ハーディング(指)LSO
録音:2013年2月5、7日/バービカン・ホール(ライヴ) |
ハーディングとロンドン交響楽団がターネイジ作品に挑戦しました。マーク=アンソニー・ターネイジは1960年生まれの英国
作曲家。ストラヴィンスキー、ブリテン、ヘンツェに私淑しながらマイルス・デイヴィスに傾倒、本物のモダンジャズを作曲できる数少ないクラシック作曲
家とみなされています。また、ホルストの「惑星」の続編として準惑星「ケレス(セレス)」を作曲しており、天体オタクからも注目されています。
「残骸から」は、2005年に名手ホーカン・ハーデンベルガーのために作曲されたトランペット協奏曲。通常のトランペットのほか、フリューゲルホルン、
ピッコロ・トランペット持ちかえ、暗闇から光明への葛藤を描いています。ジャズの要素も濃く、マイルス・デイヴィスが現代作品を吹くかのような趣となっ
ていますが、ハーデンベルガーが驚愕の巧さで、鮮やかなテクニックと歌い回しが光ります。
2012の最新作「スペランツァ」は4楽章から成る40分の大作。タイトルは「希望」を意味するイタリア語ですが、内容はセーヌ川で自殺したルーマ
ニア系ユダヤ人作家パウル・ツェラン(1920-1970)の文学を背景にしています。第1曲にはパレスチナの聖歌、第2曲にはイスラエルのわらべ歌、4曲
にはユダヤ民謡が引用されていますが、全体は映画音楽風で色彩的。
ハーディングもジャズ的なノリの良さ全開。いともカッコいい現代音楽となっています。 (Ki) |
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LSO-0745(1SACD)
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ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 op.19
三重協奏曲 ハ長調 op.56* |
ベルナルト・ハイティンク(指)LSO
マリア・ジョアン・ピリス(P)
ラルス・フォークト(P)*、
ゴルダン・ニコリッチ(Vn)*
ティム・ヒュー(Vc)*
録音:2013年2月、2005年* |
929年生まれの巨匠ハイティンクは今年3月で90歳になります。これを祝って、ロンドンSOは2013年のピリスとのとっておきの名演をリリー
スします。演目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番。この音源は配信では既に紹介されていましたが、このたびディスク初登場となります。当時の演
奏会評でも「望みうる最高スタンダードの演奏」「ピリスの演奏は直接的で自信に満ちており、ハイティンクの指揮によってそれはより高められている」と
絶賛された演奏です。カップリングの三重協奏曲は2005年の録音で、ベートーヴェンの全集にも収められているものと同じ演奏となります。 (Ki) |
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LSO-0746(1SACD)
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ブルックナー:交響曲第9番(ノーヴァク版) |
ベルナルド・ハイティンク(指)LSO
録音:2013年2月17 & 21日/ロンドン、バービカンセンター(ライヴ)
プロデューサー:ジェイムズ・マリンソン
バランス・エンジニア:アンドルー・ハリファクス&ジョナサン・ストークス
編集、ミキシング&マスタリング:ニール・ハッチンソン&ジョナサン・ストークス |
はやくも40代前半にコンセルトヘボウ管との交響曲全集録音を完成させ、今日に至る豊富なディスコグラフィからも、当代有数のブルックナー指揮者とし
てのハイティンクの業績にはやはり目を瞠るものがあります。そのなかでも近年のハイティンクが、良好な関係にある世界有数の楽団を指揮したライヴ演
奏の数々は内容的にもひときわすぐれた出来栄えをみせているのは熱心なファンの間ではよく知られるところで、このたびのLSOの第9番もまたこうした
流れのなかに位置づけられるものと期待されます。
ハイティンクは交響曲第9番をいずれもコンセルトヘボウ管との顔合わせで、これまでに1965年と1981年にセッション録音していたほか、2009年に
はライヴ収録の映像作品を発表していますが、そのすべてとの比較でLSOとの最新録音は、ハイティンク自身によるものとしては過去最長の演奏時間を
更新しています。このあたり前作「ロマンティック」のケースとも重なりますが、ここでも実演特有の有機的な音楽の流れに、持ち前のひたむきなアプロー
チでじっくりと神秘的で崇高なるブルックナーの世界を聴かせてくれるのではないかとおもわれます。
なお、交響曲第9番は、2013年2月にハイティンクがロンドン響を指揮して本拠バービカンホールで行ったコンサートの模様をライヴ収録したものですが、
当コンビは同曲を翌3月の来日公演でも7日の東京サントリー、8日の横浜みなとみらいでメイン・プログラムに取り上げており、全公演最終日にあたる
8日終演後は長いこと拍手が鳴り止まずに会場全体が深い感銘に包まれていたのが印象的でした。 (Ki) |
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LSO-0748(1SACD)
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ブラームス:ドイツ・レクィエム |
サリー・マシューズ(S)
クリストファー・マルトマン(Br)
ロンドン交響Cho
サイモン・ハルジー(合唱 指揮)
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2013年3月30&31日/ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
2012/13年のシーズンに、ゲルギエフはロンドン響を指揮してブラームスとシマノフスキの作品を対比上演するという意欲
的なシリーズで話題を集めましたが、このたびLSO
Liveに登場するブラームスの「ドイツ・レクィエム」は、2013年3月30日と31日に、シマノフス
キの「スターバト・マーテル」(LSO0739)に続いて、後半に演奏されたプログラムになります。
ゲルギエフにはロッテルダム・フィルを指揮した「ドイツ・レクィエム」のライヴ映像作品がすでに知られており、2008年5月25日におこなわれたこ
のときの模様は、1995年よりこの年まで13年に亘るゲルギエフの首席指揮者時代を締め括る最後のコンサートということもあってでしょうか。たいへん
熱のこもった指揮ぶりと並んで、世界最高峰と称されるスウェーデン放送合唱団の高水準の仕上がりがひときわ記憶に残るものでした。
いっぽう、ロンドン響との新盤でも、相変わらず声楽陣の優秀さが光ります。1966年にロンドン響の仕事を補完するために結成され、ロンドン響との
これまでのレコーディングでも数多くのパワフルな演奏を聴かせてきたロンドン・シンフォニー・コーラスを率いるのは、当代超一級のコーラス・ビルダー
として知られるサイモン・ハルジー。精緻で妙なるハーモニーはまさに、このひとならではのなせるワザといえます。
ともに英国出身のソリストのふたりも的を射たキャスティング。LSO
Liveではおなじみのマシューズは、凛とした歌声がたまらなくチャーミング。リート
に声楽曲、オペラと実績を積むマルトマンは、知的で濃やかな性格表現に長けていることをここでもあらためて強く印象付けています。
ゲルギエフ率いるロンドン響による「ドイツ・レクィエム」は、就任以来7シーズン目に入った首席指揮者のもとで、あらたな充実の時代を迎えている
楽団のいまをうかがい知るのに、またとない内容といえるでしょう。 (Ki) |
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LSO-0749(2SACD)
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ブリテン:歌劇「ねじの回転」 |
アンドルー・ケネディ(T 前口上,ピーター・クイント)
サリー・マシューズ(S 家庭教師)
マイケル・クレイトン=ジョリ(Bs マイルズ)
ルーシー・ホール(S フローラ)
キャサリン・ウィン=ロジャース(Ms
グロース夫人)
キャサリン・ブロデリック(S ジェスル嬢)
リチャード・ファーンズ(指)LSO
録音:2013年4月16、18日、ロンドン(ライヴ録音) |
2013年4月16、18日、ロンドンのバービカン・センターでブリテンの「ねじの回転」が演奏会形式で上演されました。本来、この上演はロンドン
交響楽団の前首席指揮者コリン・デイヴィスが指揮する予定でしたが、数ヶ月の体調不良の末、公演直前の4月14日に亡くなってしまいました。この上
演は図らずも追悼公演になってしまったのです。出演者たちの思いが一つになっていることは、録音を通しても実感できることでしょう。
代役指揮者はリチャード・ファーンズ。1964年生まれの英国の中堅指揮者。日本ではまだ知名度は低いでしょうが、北イングランド、リーズのオペラ・ノー
スの音楽監督を2004年から務め、意欲的な上演を立て続けに成功させて名声を高めつつある人物。遠からず国際的人気指揮者になることでしょう。そ
の冴えた劇場感覚はこの演奏からも十分伝わってきます。「ねじの回転」は2010年に演奏したことがあるそうです。
キャストは適材適所。家庭教師のサリー・マシューズは、LSOシリーズではお馴染みの英国のソプラノ。透明感のある美声がこの役にピタリです。ピーター・
クイントのアンドルー・ケネディは1977年、英国生まれの若いテノール。バロック音楽やモーツァルトのテノールとして人気が高い美声のテノールですが、
ミステリアスな雰囲気と声の張りにも不足はなく、クイントは当り役でしょう。重要な役であるグロース夫人には、英国のベテランのメッゾソプラノ、キャ
サリン・ウィン=ロジャースを起用。そしてマイルズ少年はマイケル・クレイトン=ジョリ君が天使の声で歌っています。
デイヴィス追悼で聞くにしても、次世代のオペラ界の担い手を耳で知るにも、新しい世代の歌手を目当てにするも、いずれにしても注目の録音です。 (Ki) |
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LSO-0751(1SACD)
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ストラヴィンスキー:バレエ「ミューズを司るアポロ」
オペラ=オラトリオ「エディプス王」 |
ジェニファー・ジョンストン(S:イオカステ)
チュアート・スケルトン(T:エディプス王)
ギドン・サクス(Bs:クレオン)
ファニー・アルダン(語り)
モンテヴェルディ合唱団男声Cho
ジョン・エリオット・ガーディナー(指)LSO
録音:2013年4月25日& 5月1日/ロンドン、バービカン・ホール(ライヴ)
プロデューサー:ニコラス・パーカー |
■LSOによるガーディナー生誕70年記念コンサート
2013年4月25日、「サー・ジョン・エリオット・ガーディナー生誕70年コンサート」と銘打たれたバービカン・ホールの公演で、ガーディナーはロ
ンドン響(LSO)ならびに手兵モンテヴェルディ合唱団を指揮して、ストラヴィンスキーの「ミューズを司るアポロ」と「エディプス王」を取り上げました。
なお、公演に先立ち4月14日には楽団の功労者でプレジデント、サー・コリン・デイヴィスが惜しまれつつ世を去っており、ガーディナー祝賀の舞台
がはからずもデイヴィス追悼の式典ともなりました。
■ガーディナーとコリン・デイヴィス、そしてストラヴィンスキー
ガーディナーは当日の公演プログラムのなかで、サー・コリン・デイヴィスについて、次のように追悼の辞を寄せています。
「非常に多くのイギリス出身の音楽家たちと同様に、わたしはサー・コリン・デイヴィスの鼓舞と指導に負うところがたいへん大きい。わたしが、デイヴィ
スの指揮のもと、バードとトムキンズの作品を初めて歌ったのが14歳のときだった。翌年、わたしは勇気を振り絞って、ホーランド・パークにあるデイヴィ
スの自宅のドアを叩き『指揮者になるにはどうすればよいですか』と尋ねた。デイヴィスの答えはこうだった。『まずは一旦帰って、それから《春の祭典》
を勉強しなさい』と。わたしは、そうした。
ストラヴィンスキーはもちろん、サー・コリンが特別な親しみを抱いていた作曲家のひとりであり、わたしは彼の指揮した《3大バレエ》のすべて、協奏曲《ダ
ンバートン・オークス》と2つの交響曲といったすばらしい録音を大切に心に留め置いている。
21歳の誕生日プレゼントにわたしは《エディプス王》のスコアをもらった。それから49年、残念なことにサー・コリンが世を去ってちょうど一週間が
経つけれども、初めてこの作品を指揮する機会を得たことをとても感謝している。しかも、サー・コリンのすばらしきLSOとわたし自身のモンテヴェルディ
合唱団との共演によって。 けれども、わたしがもっともサー・コリンを連想するのは、《ミューズを司るアポロ》なのだ。アポロは太陽の神、音楽の神、医術の神として有名だが、サー・
コリン自身はある種のアポロ神的な人物(Apollonian
figure)だった。」
■ガーディナー率いるLSO、モンテヴェルディ合唱団によるストラヴィンスキー
ここ毎シーズン、LSOの定期公演への客演を重ねて好評を博しているガーディナーは、2011/12年のシーズンにはベートーヴェンの「合唱」&第
1番を指揮、このときもモンテヴェルディ合唱団を帯同して、ハンブルク、ハノーファー、ミュンヘンを巡るドイツ・ツアーを成功に導くなど、現在に至る
LSOとの結び付きにはかなりのものがあります。
ちなみに、ガーディナー率いるLSOならびにモンテヴェルディ合唱団は、ストラヴィンスキー・プログラムを4月22日にブリュッセル、23日にパリ、
25日のバービカンを挟んで、28日にケルンでも演奏しており、これらの成果を盛り込む形で、最終的に5月1日のバービカンでのパッチ・セッションを経て、
このたびのアルバムは製作されました。
ガーディナーとコリン・デイヴィス、そしてストラヴィンスキー。あらためて、なんともふしぎな巡り合わせを感じさせますが、ほかでもない自身の記念
コンサートに臨むにあたり、指揮者の道を示してくれた師デイヴィス、ストラヴィンスキーの音楽へ思いを馳せていたガーディナーのこと、いつもの洗練さ
れた美観のなかにもテンションの高い演奏内容を期待できそうです。
ガーディナーは、やはりLSOとモンテヴェルディ合唱団とを指揮して、1997年にオペラ《放蕩児の遍歴》、1999年に《詩篇交響曲》のセッション録音
をおこなってもいましたが、これまでのところガーディナーによるストラヴィンスキーといえば、もっぱら新古典主義的作風の演目で、そのすべてにすぐれ
た演奏を聴かせていたというのも興味深いところです。 (Ki) |
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LSO-0752(1SACD)
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チャイコフスキー:弦楽セレナード.ハ長調op. 48
バルトーク:ディヴェルティメントSz. 113 |
ロマン・シモヴィチ(リーダー)
LSO弦楽アンサンブル
録音:2013年10月27日/ロンドン、バービカン・ホール(ライヴ) |
ロンドン響の誇る弦楽セクションは、2014年に創立110周年を迎えた名門楽団の看板として、その実力を遺憾なく示してき
ました。 たとえば、コリン・デイヴィスとは、崇高で深遠な表情を湛えたエルガー、透明で清澄な空気に包まれるシベリウスで、さらに、ゲルギエフのもとでは
プロコフィエフやシマノフスキといったユニークなプログラムで、世界中の音楽ファンを魅了し続けているのは周知の通り。
このほどLSO弦楽アンサンブルがLSO
Liveより堂々のデビュー。2013年10月にバービカンでおこなわれたコンサート前半の演目をライヴ収録した
もので、美しく親しみやすい旋律の宝庫であるチャイコフスキーに、ソリッドなサウンドでアンサンブルの精度が否応なく試されるバルトークという、弦楽
合奏の魅力を伝える究極の組み合わせになります。
以下は、ゲルギエフのお気に入りで、アンサンブルを率いるロンドン響の若きリーダー、ロマン・シモヴィチによるレコーディングについての談話です。
「わたしは、LSO弦楽アンサンブルを指揮するとき、いつもゾクゾクする。たった数日間、信じられないほど精力的に取り組むだけで、チャイコフスキーの
弦楽セレナードとバルトークのディヴェルティメントの途方もなくゆたかな音色を習得したんだ。わたしたちは、自分たちの耳と反応を頼りに親密な室内楽
の響きを習得したかったんだ。プレーヤー誰もがこのレコーディングで各自の重要性と影響力を実感したし、わたしにとっては彼らのチームの一員であるこ
とと、この録音に参加できたことはたいへんな名誉だよ。LSO弦楽アンサンブルはほんとうに特別なアンサンブルだ。」 (Ki) |
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LSO-0757
(1SACD+Bluray-Audio)
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ベルリオーズ:序曲「ウェイヴァリー」Op. 1
幻想交響曲 Op. 14
■特典映像
ベルリオーズ:幻想交響曲 Op. 14(全曲演奏) |
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
録音:2013年10月31日 & 11月14日/ロンドン、バービカンホール(ライヴ)
[SACD : DSD5.1 surround stereo / 2.0
stereo]
[Pure Audio Blu ray : 5.1 DTS-HD Master
Audio (24bit/192kHz), 2.0 LPCM (24bit/192kHz)]
■特典映像
ワレリー・ゲルギエフ(指)LSO
収録:2013年11月14日/ロンドン、バービカンホール(ライヴ) |
ゲルギエフがロンドン響を指揮して、あらたにベルリオーズのシリーズをスタート。第1弾の「幻想交響曲」と序曲「ウェイヴァリー」は、2013年の秋、当
コンビがシーズンの目玉に掲げたベルリオーズ・プロジェクトにおける公演の模様をライヴ収録したものです。ゲルギエフ2度目の「幻想交響曲」は、ウィーン・
フィルを指揮した当時のフィリップスへのセッション・レコーディングが2003年でしたので、このたびは10年ぶりの再録音ということになります。
よく知られる通り、ベルリオーズはロンドン響にとって、この作曲家のエキスパート、サー・コリン・デイヴィスのもとで半世紀以上に亘って共に取り組んできた、
もっとも得意とするレパートリーのひとつ。膨大なディスコグラフィを構築する過程で、デイヴィス指揮でロンドン響は「幻想交響曲」について、2度もレコーディ
ング(1963年セッション、2000年ライヴ)を果たすほどで、演奏内容はその音楽語法を体得してきた自負を感じさせる説得力の強いものでした。
ちなみに、ロンドン響はこの間、1967年にブーレーズ、1975&76年にプレヴィン、1977年にパイタ、1988年にフレモー、1989年にスクロヴァチェフスキと、
じつにさまざまな指揮者とも「幻想交響曲」のいくつもの個性的な演奏を生み出してもいました。
こうした背景を踏まえると、ここでのロンドン響との顔合わせはたいへん意味あるところで、いつにもましてゲルギエフにとって、おおきな強みといえそうですが、
ゲルギエフもまた、ベルリオーズに傾ける情熱にかけてはかなりのものがあります。
公演に先立って行われたインタビューでゲルギエフは、ベルリオーズの音楽の魅力について熱っぽく次のように語っています。
「ベルリオーズの響きはとても現代的で、とても新鮮で予測不可能なものなのです。書法は独自のスタイルで貫かれています。それこそがいつもわたしをベルリオー
ズに惹きつけてやまないのです。」
ゲルギエフとロンドン響によるベルリオーズ・プロジェクトは、実質的には10月31日から11月17日までの2週間半と短期間ながら、本拠バービカン8公演と、
ヨーロッパ・ツアーを併せた全13公演が組まれ、当アルバムの2作品のほかにも、「イタリアのハロルド」、「ファウストの劫罰」、「ロメオとジュリエット」、歌曲集「夏
の夜」、カンタータ「クレオパトラの死」、「ベンヴェヌート・チェッリーニ」序曲といった主要な作品が網羅的に演奏される大がかりで本格的なものでした。
本レコーディングに際して、ゲルギエフ自身は2013年5月に、もうひとつの手兵マリインスキー劇場管を指揮して「幻想交響曲」を演奏してもいましたし、
ロンドン響とは「幻想交響曲」と序曲「ウェイヴァリー」を11月8日にブルノ、9日にザンクト・ペルテン、10日にエッセン、16日にパリのサル・プレイエ
ルでも取り上げていたことから、実演でのプログラムと並行して演奏内容を検証しつつ、集中してその解釈を掘り下げる機会にも恵まれていたとおもわれます。
「幻想交響曲」の演奏時間について。ウィーン・フィル盤との比較では、ロンドン響新盤は第1、第4楽章のすべての反復を実行して10分以上長くなっています。
このあたりにもゲルギエフの細部の情報に対するこだわりが垣間見えて、より踏み込んだアプローチを期待出来そうです。
なお、当アルバムではLSO Live初の試みとして、従来のSACDハイブリッド盤に加えて、同一の演奏内容を収めたピュア・オーディオ・ブルーレイ・ディ
スクが同梱されます。お手持ちのブルーレイ・ディスク・プレーヤーで手軽に楽しめるハイスペックのフォーマットへの対応は、かねてよりオーディオ・ファイル
からの要望も高かったのでなんとも嬉しい配慮といえるでしょう。
さらにボーナス映像として、ブルーレイ・ディスクのビデオ・パートには、本拠バービカンにおける11月14日分の「幻想交響曲」の全曲演奏が丸ごと収められ、
まさに至れり尽くせりの仕様となっております。 (Ki) |
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