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殿堂入り: 交響曲  管弦楽  協奏曲  器楽曲  室内楽  声楽曲  オペラ  バロック レーベル・カタログ チャイ5



チャイコフスキー:交響曲第5番〜全レビュー
TCHAIKOVSKY : :Symphony No.5 in e minor Op.64
芥川也寸志(指揮)
Yasushi Akutagawa



掲載しているジャケット写真と品番は、現行流通盤と異なる場合があります。あらかじめご了承下さい。



チャイコフスキー:交響曲第5番

芥川也寸志
新交響楽団
第2楽章ホルン・ソロ:
東武レコーディングズ
TBRCD-0176(3CD)
録音:1982年9月15日東京文化会館・第97回演奏会(ステレオ・ライヴ)
演奏時間: 第1楽章 14:18 / 第2楽章 11:59 / 第3楽章 6:07 / 第4楽章 12:29
カップリング/交響曲第4番、ただ憧れを知る者だけが(芥川也寸志編)、交響曲第5番リハーサル風景、交響曲第6番「悲愴」、イタリア奇想曲
"曖昧さ皆無!江戸っ子気質で押し通した熱いアプローチ!"
★2025年に生誕百年を迎えた芥川也寸志が創設したアマチュアオーケストラ、新交響楽団の演奏による素晴らしいチャイコフスキー曲集。「チャイ5」の新譜で出てもすぐにレヴューすることはめったにない私が、今回ばかりはすぐさま書かずにいられなかったほどの名演です!それは一言で言えば、「愛の塊」。「熱演」とか「爆発」という形容はどうもしっくりとしません。理屈ではない、ましてやビジネスでもない一途な愛こそが表現芸術の原点であると再認識させてくれる、かけがえのない演奏なのです。そして聴後には、「アマチュアオーケストラ=下手な素人」という誤解も完全に消え失せていることでしょう。
第1楽章、展開部直前の6:24からの盛り上がりで、指揮者の構築力と愛の度合いが露呈する箇所。逞しい音像を強固に打ち立てていますが、ここまで成功した例は稀!この展開部ではティンパニが絶品!決して出しゃばらずに全体とブレンドしながら、男性的な凄みを醸し出すアクセントとしての役割をここほど見事に果たした例は他に思い当たりません。コーダでモヤモヤとした感触を残さないのは芥川の音楽作りというより性格が滲み出た結果かもしれません。
 第2楽章では、111小節(7:05〜)かの弦の歌い回しが必聴!響きも内容も充実の極み。プロのオケではプロ意識が邪魔をしてここまで音を愛おしんで弾くのは難しいと思います。
 第3楽章は、第1音を思い切り引き伸ばすのにビックリ。中間部は音を揃えているだけのプロ集団とどちらが音楽的か言うまでもありません。終結部冒頭で突然テンポを落としたり、225小節でかなり長いルフトパウゼを挿入、最後の一音をスタッカートでサクッと締めくくるなど、軽くあしらわれることの多い楽章にもこれだけのこだわりを注ぐ熱意に頭が下がります。ちなみに、併録されているリハーサル風景はこの15年前の録音であり、このような細かい指示は出していません。
 終楽章は序奏部はスコアの指示通り堂々とした風格をみなぎらせる演奏は意外と少ないですが、ここでは見事に決然とした響きを実現。主部の突進力もただの高速運転とは別次元の本気度!149小節(4:22)は弱音からのクレッシェンドにせず決然とメゾフォルテで一貫。再現部冒頭のテンポの入れ変わりを主部冒頭のテンポで押し通すのも、ちまちましたことを嫌う江戸っ子気質の表れか、爽快この上なし。後半、全休止後の行進の冒頭部は響きが軟弱になりやすいですが、弦の刻みに渾身の意思を込めることでそれを回避。ザッザッと本当に進軍する様を想起させます。
 芥川也寸志とロシア音楽とのつながりの深さは広く知られていますが、その成果と熱い共感をストレートに音楽に乗せたこの名演奏。何を感じて何がしたいのかわからないといったモヤモヤする箇所などない演奏を通じて、この作品の魅力を再認識していただけることでしょう。
 なお、新交響楽団のHPに以下のような芥川氏のコメントが掲載されていますので引用いたします。
「Webster大辞典によると、“Amateur”の第一義には“Love”とある。まさに愛してやまぬ、これこそアマチュアの心であろう。(中略)諸橋轍次の“新漢和辞典”には、“1.イ,いつくしむ。かわいがる。ロ,したしむ。ハ,このむ。2.おしむ。イ,大切にして手離さない。ロ,物惜しみする。3.異性や物をむさぼり求めること。〔仏〕”などとある。 これらの字意は、あたまに音楽を、音楽について、音楽に対して、等の言葉をつければ、いづれもアマチュア音楽家の気持ちを言いあてているように思うが、とりわけ、何ものかにひきつけられる感じ、或る物事に没頭する快感、はそのものズバリの表現ではないだろうか。要するに代償を求めず、ただひたすら音楽を愛し、それに没入していく心、それがアマチュアの中身であり、魂でもあろう。(中略)私はいつも、アマチュアを「素晴らしきもの」の代名詞にしたい位に思っている。ただひたすらに愛することの出来る人たち、それが素晴しくないはずがない。」 【2025年8月・湧々堂】
第1楽章のツボ
ツボ1 やや早めのテンポ。感傷に傾かず、意志の力を湛えた進行。クラリネットのみならず弦にも濃厚なニュアンスを込めている。
ツボ2 中庸テンポながら、低弦の刻みがしっかりと拍節を踏みしめているので、音像が茫洋としない。
ツボ3 スコアどおり。
ツボ4 推進性を失わない程度にディミヌエンド。決してフレージングが軟化しない。
ツボ5 わずなにテンポダウン、冒頭でスフォルツァンドしてから、粘着質に野太い音色で一気に呼吸を増幅。
ツボ6 フレージングの呼吸が深い。強弱対比は決して大きくはないが、感情の振幅は十分に伝わる。
ツボ7 少しテンポアップ、縦の線の揃い方も良好。
ツボ8 ほんの僅かにポルタメントがかかるが、恣意的ではなく自然発生的に響くのが良い。
ツボ9 インテンポのまま。16分音符は隠れ気味だが聴こえる方。
第2楽章のツボ
ツボ10 冒頭の低弦は以外にも繊細路線。ホルンは凡庸。
ツボ11 インテンポ。見事に意思を凝縮したフォルティッシモ。
ツボ12 テンポは変えない。クラリネットは自然なフォルムの中で仄かな悲しみを滲ませる。
ツボ13 縦の線が揃っていないが、揃いすぎて無機質に響くのを避けているのかもしれない。
ツボ14 ややぎこちないが、愛のパワーで乗り切り、呼吸も深いので音楽は淀まない。
ツボ15 完全にインテンポを貫徹、その分色気に乏しい。
第3楽章のツボ
ツボ16 明確にガクッとにテンポを落とす。
ツボ17 全体の連携が見事!その連携を楽しんでいるような雰囲気が曲想に華を添えている。
ツボ18 見事に一本のラインを形成している。
第4楽章のツボ
ツボ19 テンポは標準的。自信と確信に満ちた堂々たる進行トランペットをかなり強調させて運命の戦慄を呼び起こす手法が印象的。
ツボ20 ホルンは脇役ではあるが、確実に下支えとしての役割を果たす。
ツボ21 テンポはカラヤンより高速で馬力満点、ティンパニは、58,62、66小節の頭にアクセントあり。
ツボ22 無視。
ツボ23 ごく標準的なバランスだが、全身で弾いているのが目に浮かぶほど入魂!。
ツボ24 主部冒頭と同じテンポ。
ツボ25 強打ではないが存在感はあり。
ツボ26 そのままイン・テンポ。
ツボ27 直前からテンポを落とす。トランペットの3連音は崩壊なし!
ツボ28 本来の音価よりも長め。
ツボ29 冒頭部は響きが軟弱になりやすいですが、弦の刻みに渾身の意思を込めることでそれを回避。
ツボ30 弦は音を切り、トランペットはレガート気味。トランペットとティンパニの協調が素晴らしい!
ツボ31 改変なし。
ツボ32 明瞭だが強靭さに欠ける。
ツボ33 堂々たるインテンポ進行。最後の2小節のみテンポを落とす。。


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