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チャイコフスキー:交響曲第5番〜全レビュー
TCHAIKOVSKY:Symphony No.5 in e minor, op.64



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チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 Op.64
佐渡裕(指)ベルリン・ドイツ交響楽団 
第2楽章ホルン・ソロ:
AVEX
AVCL-25367

録音年:2008年5月13-15日 ベルリン・イエス・キリスト教会 【ステレオ】
演奏時間: 第1楽章 16:04 / 第2楽章 14:08 / 第3楽章 6:42 / 第4楽章 13:30
◆スラブ行進曲
“あえて熱演に走らない佐渡のアプローチは嘘がない!”
メインの「チャイ5」に入る前に、カップリングの「スラブ行進曲」から。まず最初に「やはり」と思わせるのテンポ感。物々しさを避けた快適でさらっとした進行で、その中に心のこもった歌心を通わせている点に好感が持てます。明瞭そのものの優秀録音も功を奏して迫力も満点。オケも抜群に巧い!問題は後半アレグロに入ってから。7:56から一気にテンポアップして疾走するのはよいのですが、その直前に伏線が出来上がってあらず、しかもその疾走の空虚なこと!まるで運動会のマーチです。更に8:09の次のシーンへの以降は、その倍のテンポでがっちり着地するボールトなどに比べ、なんとも不安定。最悪なのは8:49で突如音量を落としてからクレッシェンドするという演出。気持ちは非常にわかりますが、佐渡の小賢しさがクローズアップされるだけで、興が削がれるのです。佐渡の演奏では、その派手な指揮ぶりとともにアプローチの「小賢しさ」あるいはそこの浅さが、いつも私の中で感動に歯止めをかけてきました。何がしたいのかさっぱりわからない演奏に比べれば存在価値はあると思いますが、頭の中のイメージが明確に音に反映され、心に響く音楽として形成されること。これが実現できれば凄い指揮者になると思います…と言ったのは、今は亡きホルン奏者、千葉馨氏。愛情を込めたこの激励を隣で聞いていた佐渡氏本人はどう受け止めたのかは知る由もありませんが、少なくとも、指揮がダイナミックなら音楽もダイナミックとは限らないという事実を見つめ直して欲しいと、私自身はかねがな思っていたのです。ただ、その千葉氏の発言は、10年以上前の話。これだけ万全の体制でセッション録音に臨んだのですから、小手先めいた演出はしないと思っていただけに残念でした。
気を取り直して、チャイ5では感動的な演奏を繰り広げてくれることを期待して、いざ視聴。おそらくコバケンばりに熱気ムンムンの熱演を展開すると思いきや、なんとその予想の裏をかくように徹底的に大人の音楽に徹している点にまずびっくり。そのアプローチは単なる思い付きでなく、熟考を重ねた末の結論であることは、表面的な馬力を主眼としない哀愁のニュアンスが首尾一貫していることでも明らかです。そのことを最も顕著に感じさせるのが第2楽章の終結から3楽章にかけてのニュアンス。第2楽章の結尾を繊細な再弱音で奏でる演奏は他にも多く存在しますが、そのニュアンスを引きずりながら第3楽章のニュアンスを形成するなど思いもよらないことで、もちろん前代未聞!したがってその第3楽章はきわめて遅いテンポで開始し、哀愁の色合いがふんわりと彩りを添える風情が美しく、しかもそのニュアンスを最後までぶれずに浸透させるとは全く脱帽です。終楽章は更に安定感のある大人の音楽に徹しており、意地でも感覚的な快速に陥らないという決意が漲っています。もう少し「仕掛け」を加えてもよかったのではと思わせるほど落ち着きはらい、巨匠風ともいえる音楽ですが、そこには無理をしている様子はなく、音楽的に実に充実しきっているのですから、ここ数年の佐渡の円熟ぶりを素直に認めざるを得ません。最後のプレスト以降はもう少しガツンとくる迫力が欲しいところですが、全体を通じてこれほど自身の描いたイメージを具現化しきった演奏を繰り広げ、かつ、そこに一切の嘘がないということを痛切に感じた次第で、ゆえに「Excellent」印を付けさせていただきました。
第1楽章のツボ
ツボ1 クラリネットは弾きを潜めるそうな弱音で開始し、3小節目から音量を上げるというように、スコアの指定を完全遂行しているのが意外。ハッとするのは11小節からの弦のレガートの美しさ!ホールトーンの素晴らしさも関係していると思うが、この弦とクラリネットの溶け合いの美しさは聴きもの。28小節と30小節のスフォルツァンドも意志が漲る
ツボ2 標準的なテンポ。やや気になるのは。最初の弦の拍打ちが安定なこと。クラリネットとファゴットのユニゾンは響きが美し上にく、巧味も満点。続くフルートは更に心に染みる。ここで早くも心を捉える演奏は他にあっただろうか?
ツボ3 デリケートの愛情を注いでいる。
ツボ4 スラーよりもスタッカートの弾力を重視。
ツボ5 スラーのアーティキュレーションは無視して全体を大きく呼吸させ、響きの求心力も高い。思わず「出た!」と心で叫んでしまったのが、117〜118小節にかけて、チェロのみが行なうポルタメント!隠し味として粋な計らいと捉えるか、例の小賢しさの表れと取るかは聴き手次第だが、ここでは曲想にふさわしく、ニュアンスとして音楽の中に根付いているので賞賛したい。なお、再現部の同じ箇所ではポルタメントは掛かけいないが、この節度とバランス感覚にも敬服。
ツボ6 ややテンポを落として大きな呼吸でうねる。フォルティッシモで更に音量を上げることはないが、全体の呼吸の深さは本物
ツボ7 やや雑然としているが、骨太な響きに明確な意思を感じる。
ツボ8 弦のテクスチュアに統一感があり、響きも呼吸も充実。表面的にきれいに歌っているだけの演奏とは大違い。
ツボ9 16分音符の頭はは聞き取れない。487小説から重厚な足取りで進行を開始。途中からテンポがやや前のめりになるのは佐渡の悪い癖なのか?しかし、ここでは大勢に影響はない。
第2楽章のツボ
ツボ10 冒頭の低弦はしっかりと地に足をつけた進行。ホルンは技巧的に安定し、心から歌っているが、ややクローアップされすぎのようだ。
ツボ11 骨太でスケール感がある。
ツボ12 強弱の陰影に配慮した細やかなニュアンス。技巧も安定。
ツボ13 1〜2小節と3〜4小節では表情をくっきりと変化させているのが好印象。
ツボ14 冒頭のフォツティシシモから張りのある音で渾身の思いをぶちまける。フォルテ4つの頂点もスケールが大きいが、更に一段上のダイナミズムをここへ照準を合わせて展開してほしかった。
ツボ15 デリカシーを極め、徹底的に息を潜めた最弱音。そこには嘘のニュアンスはなく、心のひたひたと迫る。
第3楽章のツボ
ツボ16 ややテンポを落としてから進行。
ツボ17 前半の遅めのテンポのままなので、やや音楽が鈍重ぎみだが、目の詰んだ表情を聴かせる。
ツボ18 なぜか輪郭がぼやける。
第4楽章のツボ
ツボ19 慎重にゆったりとしたテンポで進み、決して先を急ごうとしない大人の音楽。
ツボ20 木管とホルンはほぼ同等のバランス。主旋律の木管はもう少し浮き立ってもよかったのでは。
ツボ21 大爆進するであろうという期待を大きく裏切る落ち着き払った進行。テンポもカラヤンよりもやや遅いくらい。冒頭のティンパニのトレモロをしっかりと位置づけたながらも大きくクレッシェンドすることはなく、58、62、66小節の各冒頭でアクセントを一音ポンと置く。
ツボ22 明確にアクセントを遵守。
ツボ23 決してでしゃばらず、全体のニュアンスを更に引き立てる役に徹している。
ツボ24 直前で一旦テンポを落とし、再び主部冒頭とほぼのテンポに戻る。
ツボ25 明瞭に聞こえるが、やや芯を欠く響き。
ツボ26 そのままインテンポ。
ツボ27 一段テンポアップするが決して軽薄にならず、不安な警告を込めた音楽としてアプローチしている。
ツボ28 本来の音価を大きく引き伸ばすが、重量感をそれほど感じられない。ティンパニもことさら突出させない。
ツボ29 ここでもゆったりと慎重なテンポ運び。生真面目なほどアーティキュレーションを厳格に施しながらも、呼吸は根底から息づき、小手先の凄みに頼らない内面からの歌が溢れ出る
ツボ30 弦もトランペットも音を切る。
ツボ31 弦の音の動きに合わせた改変型。そのトランペットには、節度と気品が感じら、意図的に突出させた嫌らしさを感じさせないのは感服。
ツボ32 明快に鳴っており、バランスも良好。
ツボ33 落ち着いたテンポを守り抜くのは良いが、やや音に重みが欠けるきらいがあり、最後の締めくくりもややっけない。




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