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殿堂入り: 交響曲  管弦楽  協奏曲  器楽曲  室内楽  声楽曲  オペラ  バロック レーベル・カタログ チャイ5



チャイコフスキー:交響曲第5番〜全レビュー
TCHAIKOVSKY : :Symphony No.5 in e minor Op.64
コンスタンティン・シルヴェストリ(指揮)
Constantin Silvestri



掲載しているジャケット写真と品番は、現行流通盤と異なる場合があります。あらかじめご了承下さい。



チャイコフスキー:交響曲第5番

コンスタンティン・シルヴェストリ(指)
フィルハーモニア管弦楽団
第2楽章ホルン・ソロ: デニス・ブレイン
Treasures
TRT-020(1CDR)
録音:1957年2月21-22日 キングスウェイ・ホール,ロンドン【ステレオ】
演奏時間: 第1楽章 16:05 / 第2楽章 13:35 / 第3楽章 5:58 / 第4楽章 11:25
カップリング/ボロディン:だったん人の踊り、ブラームス:ハンガリー舞曲第5&6番、ドヴォルザーク:スラブ舞曲第1&2番
“実行すべきことをしたに過ぎないシルヴェストリの純粋な狂気!”
 シルヴェストリが遺したチャイコフスキーの三大交響曲の中でも最もその個性を発揮し尽くしたのがこの「5番」。その奇想天外なアイデアだけを捉えて「異常」とか「爆演」とか呼ばれます、ウィーン・フィルのような伝統的な音色を持たずに機能美とセンスを旨とする当時のフィルハーモニア管に、土埃と汗の匂いを注入していることが重要で、シルヴェストリが真の指揮者であることを実証しています。大胆なテンポや強弱の変化が、もしも綺麗に整理されたアンサンブルから飛び出たらどうなるでしょう?テンポもフレージングも音色も全てが不可分であることを理解した上で、音楽を生き生きと再現するという指揮者の使命を純粋に果たしているにすぎないシルヴェストリのアプローチ。そこには個人的な趣味も投影されているとは思いますが、作品への愛が本物であるからこそ、常識離れであっても作品の本質からは逸脱しないのです。
 そのことは、第1楽章冒頭クラリネットと弦のフレージングから明らか。「何となく暗い」雰囲気だけで進行することが多い中、この訥々とした語り口と艶の失せた音色を名手揃いのオケに徹底敢行させ、しかも主体的な表現に結実させています。主部の暗さも遅めのテンポと一体となって醸し出され、1小節ごとにニュアンスを確かめつつトボトボと歩を進めます。第2主題の128小節からの4小節間で顕著なように、レガートを回避して甘美路線に傾くこと戒める意思の強さや、洗練された声部バランスで見通しよく鳴り響く感覚的な心地よさとの決別ぶりは一貫して揺るぎません。
 第2楽章ホルン・ソロはデニス・ブレイン。日頃からソリスティックな吹き方をしないブレインにしてもここでの吹き方はかなり陰影が抑制的なのは、シルヴェストリの指示なのかもしれません。逆に中間のクラリネット・ソロ(バーナード・ウォルトンと思われる)は、涙なしには聴けない切なさ!続くファゴットからポルタメントを含む弦への連なりは、全楽章を通じての白眉!これを聴いてシルヴェストリをまがい物呼ばわりなどできましょうか?ラストシーンでは、独自のアティキュレーションを施しつつ、後ろ髪引かれる風情を醸成。その思い悩んだ気持ちのまま、すぐにワルツで踊るなどあり得ないということでしょうか?続く第3楽章冒頭の音価を引き伸ばすのみならず、4拍子に聞こえるほどリズムの輪郭をぼかす大胆さ!3拍子が拍節が明確化してからも、夢の中をを彷徨うようにテンポは微妙に揺れ続けます。
 終楽章の主部は速めのテンポで突進しますが、アンサンブルは正確無比にも拘らずスマートさは皆無。土埃を立てながら馬車が駆け出すようなこの表現も、シルヴェストリ特有の音色センスの賜物。驚くのは再現部冒頭(6:30〜)の突然のテンポアップ!スコア上ではここでアニマート(生き生きと)の指示がありるので、その意味を汲んで果敢にニュアンス化したわけですが、シルヴェストリにとっては果敢でも何でもなくやるべきことをやったまでのこと。それにしてもこのレスポンスの良さ!オケがフィルハーモニア管で本当に良かったと痛感するばかりです。後半全休止前の猛進も凄まじいですが、504小節のプレスト以降は速さは、未だこれを超えるものはなく、このテンポを言い渡されたフィルハーモニア管の面々の心理、演奏不可能なテンポをあえて要求したシルヴェストリの真意をあれこれ想像するのも一興。
 シルヴェストリの音楽を聴くたびに思うのは、アプローチが十分に常識離れしているにもかかわらず、「常識こそが非常識だ!」などという強い主張を表面化させない凄さ!音楽の魅力を出し切ることにしか興味がないかのようなこの純粋さはマタチッチを彷彿とさせますが、何かに夢中になるということは理屈を飛び超えて人を惹きつけるものだということを聴くたびに再認識させられるのです。
 戦争も体験せず、悩まず苦しまずスマホですぐに答えを導き出せる世の中。しかも、自分自身にどこか自信がなく、人の目ばかりを気にする風潮は世界中のあらゆる分野で見られる現象ですから、昨今のクラシック音楽の演奏が生温いものばかりになってしまったのも必然と言えましょう。そんな中から、シルヴェストリにような「「純粋な狂気」を持つアーチストが生まれるなど考えられませんが、復刻ではあってもこうして、「真の音楽表現」に触れる機会は決して無くならないはずです。それを心から味わいたいと願う聴衆が存在する限り…。【2022年6月・湧々堂】
第1楽章のツボ
ツボ1 クラリネットはスラーやテヌートを省略して、呟くような雰囲気を出すことで独特の暗さを表出。フレー結尾の音価を引き伸ばす独特の感情移入もシルヴェストリならでは。
ツボ2 テンポはやや遅め。序奏の暗さをそのまま引き継ぐために、主題の16分音符と8分音符のリズムをあえてぼかしている。楽想の暗さに反し、このリズムを何事もないように軽く弾ませる演奏が殆どなだけに、、シルヴェストリの音楽への真摯な姿勢が凡百の指揮者とは異なることがわかる。
ツボ3 滑らかなフレージングを避けている。この曲を単なる甘美なものにしないというコンセプトがここにも表れている。
ツボ4 あからさまなまでのリテヌート。スレレオ期以降でこのスタイルを採用しているのはケンペなどごく少数。
ツボ5 ここでもレガート厳禁!音符が下るたびに音価を短く処理するとともに、微妙なテンポ変化を交えて悲しみのニュアンスを徹底刻印。
ツボ6 楽譜を徹底的に拡大解釈。強弱による陰影ではなく、ここでも音価を自在に操ることで、出口を見出だせないことへのもがきを表現。いわゆる内向的というニュアンスとは異なるところが、また独特。
ツボ7 テンポは大きく変えていないが、クラリネットの音色にご注目!何と優しく微笑んでいることか!アニマート(元気に)の指示があるが、額面通りに実行しないのは今までと同様。
ツボ8 これぞ、お決まりのカンタービレでは済まないシルヴェストリ流のフレージング!フレーズの流れに完全に身を任せることがない、迫真のニュアンス!
ツボ9 やや遅めのテンポなので。16分音符はわずかに聞き取れる。
第2楽章のツボ
ツボ10 冒頭の弦は楽譜に忠実で、その意味を最大限に抽出。ブレインの吹くホルンはデリカシーに富み。いつも以上にソリスティックなニュアンスに傾くことを戒めているように聴こえる。クラリネットも特に弱音が心に染み、オーボエ(サトクリフと思われる)も控えめながら深いニュアンスを確実に表出。ここまでの一連の流れは、史上トップクラスの素晴らしさ!
ツボ11 意外なほど淡白に通過。既にその先のクラリネット・ソロに焦点を合わせているのかもしれない。
ツボ12 「音楽を感じること」の最高の見本!技術的にも音色的にもこのバーナード・ウォルトンのソロを超えるものは思い当たらない。涙にむせぶこの風情は、ウォルトンの自由な表現のように見えるが、その後のファゴットも同様のニュアンスを醸していること、更にその後の弦が露骨なポルタメントまで用いてそれらを受け止めていることから、全てシルヴェストリの制御と趣味の範疇で行われている表現だと思われる。
ツボ13 優しく頬を撫でるようなピチカート!これがあるからこそ、続く弦のアルコのフレーズと美しくk連動できている。シルヴェストリの表現は大胆なだけに唐突な印象を与えがちだが、ここでも明らかなように、常に場面同士の連動が念頭にあるということを再認識できる。
ツボ14 爆弾的な破壊力はない代わりに、音符同士の凝縮力は高く、歌心も迫真。
ツボ15 ここまでレガートの背を向けた史上皆無!アーティキュレーションも独特。
第3楽章のツボ
ツボ16 テンポを落とすというより、音価を倍に伸ばしている。
ツボ17 勢い任せなノリではなく、室内楽的と言えるほど目の詰んだアンサンブルを目指している。
ツボ18 パーフェクト!
第4楽章のツボ
ツボ19 テンポは標準的。決して音圧は強くないが意思の強さを確実に孕んでいる。
ツボ20 ホルンは裏方、。オーボエ主導で進行。
ツボ21 ティンパニは、58小節飲み軽くアクセント。後はトレモロのまま。テンポは速め。
ツボ22 完全に無視。
ツボ23 コントラバスは何より音程の正確さが印象的。
ツボ24 アニマートの指示に即応するように急にテンポアップ!
ツボ25 特にアクセントは無し。
ツボ26 主部冒頭のテンポに戻る。
ツボ27 ここから突如超快速に。当然3連音は崩壊寸前。この「モルト・ヴィヴァーチェ」を生かしたテンポを果敢に実行した例は、チェリビダッケなどごく少数。
ツボ28 8分音符の音価はやや長め。。ティンパニは最後の一打なし(やや曖昧)。
ツボ29 完全に「陽」のニュアンスを出すのはこれが初めて。
ツボ30 弦もトランペットも音を切る。495小節でトランペットに突如クレッシェンドか掛かる。
ツボ31 元の動きに合わせる改変型。
ツボ32 強奏ではないが音の輪郭は明確。ステレオ初期としては優秀。
ツボ33 イン・テンポのまま終結。


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